2024年1月31日 17:01
皆さんは小さいお子さんと一緒に美術館を訪れる機会はありますか?美術館には行きたいけど「こどもが泣き出したら?」とか「作品に触っておこられちゃうかも」とか、いろいろ心配になることもありますよね。そんな方達にも気軽に美術館を利用してもらいたい、お子さんと一緒にアートを楽しんでほしいという思いもあって当館では毎年「夏休みこども美術館」や「ファミリーDAY」、「ベビーカーツアー」といった子どもと一緒に参加できるプログラムを実施しています。でも今回はもっと日常的に子どもとアートを楽しめる場所「キッズスペース 森のたね」を紹介したいと思います。
キッズスペースがあるのは、2階ロビーの一角、ちょうどコレクション展示室を出てすぐの場所です。この空間は久留米市在住のアーティスト・オーギカナエさんに、小さいお子さんと一緒にアートに触れながらくつろげる場所として制作をお願いしました。まず目に飛び込んでくるのは向かって左側と正面の壁に描かれた森の景色。美術館に隣接する大濠公園の森とその向こうに広がる街や海が一面に描かれ、さまざまな色や形のクッションになったオブジェが飾られています。壁の前には美術に関連した子ども向けの絵本が並ぶ木製の本棚も。床は畳敷になっているので、靴をぬいで足をのばしてゆったり過ごすこともできますし、赤ちゃんが寝転んだり、はいはいしても大丈夫。横には授乳室も備えてあるので、安心してくつろいでもらえます。
畳敷きの床 授乳室
ここの一番の推しはなんといっても壁のオブジェ。マグネットがついているので、壁からはずして遊ぶことができるんです。ひとつひとつ丁寧に手作りされたオブジェには森の風景を彩る花や葉っぱがあり、池には魚や蓮の葉も浮かんでいます。そして木や花に囲まれた森の中を意気揚々と歩いているのは美術館の所蔵品をモチーフにしたキャラクターのオブジェたち。「このウサギ、どこかで見たことある」「このかぼちゃはあの作品かな?」なんて思ったことがある方もいるのではないでしょうか?どのキャラクターがどの作品のモチーフなのか、当てっこするのもここで遊ぶ楽しみのひとつです。展示されている作品のキャラクターを見つけて「この作品を見にいってみようか」なんてお子さんと一緒にオリジナルの作品を探しに行ってみるのもいいかもしれません。
愛らしいキャラクターたち
ところで皆さんはお気づきですか?壁のオブジェたちが時々入れ替わっていることを。実は3ヶ月に1回、季節ごとに壁の景色が変わるようになっているんです。キッズスペースの向かいには大濠公園を望む大きな窓があって、外の景色とつながるこの空間でも四季を感じられるようにとオーギさんが考えてくれました。春には桜のはなびらが舞い、夏には打ち上がる花火にアイスやスイカ、秋には紅葉が見れますし、冬にはクリスマスとお正月にあわせて葉っぱも金と銀に変わります。そんな変化も楽しみつつ、子どもたちにはお気に入りのオブジェをかかえて森の景色の中をお散歩させたり、キャラクターたちのお話を作ったりしてオブジェたちと仲良く遊んでくれるといいなと思います。
今は冬の景色。3月になると春の景色に変わります
これは余談ですが、オブジェたちにはオーギさんが考えてくれた名前もついているんです。例えばジョアン・ミロの作品に描かれているモチーフのクッションには「ホシクン」や「オシャレサン」、アニッシュ・カプーアの作品には「カプくん」などなど。直接オブジェたちに名前が書いてあるわけではありませんが、そんなところにもオーギさんのオブジェたちへの愛が伝わってきます。
ホシクン オシャレサン カプくん
このキッズスペースにつけられた「森のたね」という名前には、「小さな子どもたちが心に持つ美術のたねを育む場所にしたい!」というオーギさんと美術館の願いが込められています。この場所がちょうど展示室の入り口へ向かう通路と展示室の出口の間にあるのも、子どもたちと美術をつなぐ架け橋のようだなと感じさせられます。ここからいつか展示室へいく子も展示室でいろんな作品に出会った子もこの場所でオーギさんのアートに触れながら、心のなかにある美術のたねをたくさん育ててくれるのではないでしょうか。
(教育普及専門員 中原千代子)
2023年10月18日 13:10
10月も半ばとなって気温が下がり、やっと秋の気配を感じる爽やかな気候になってきましたね。福岡市美術館の11月といえば、秋の教育普及プログラムとして毎年11月初旬に開催する「ファミリーDAY」です。これは福岡市美術館の開館記念日である11月3日に合わせ2013年より企画しているもので、今年で開催10周年を迎えます。ファミリーDAYの期間中には「みて、きいて、はなして、つくって!家族で楽しむアートミュージアム」をキーワードに、毎年小さなこどもから大人まで家族が楽しめる様々なプログラムを企画し、これまでも多くのファミリーに参加してもらってきました。
今年のファミリーDAY開催日は11月3日(金・祝)、4日(土)、5日(日)の3日間。この間は毎日10時から15時までの時間帯で各種のプログラムを実施します。事前予約制のものもありますが、予約なしで当日参加いただけるものも行います!さらに、開館記念日の11月3日(金・祝)はコレクション展の観覧料も無料となりますので、家族みんなで気軽に福岡市美術館に遊びにいらしていただければと思います。
美術館HPではWebチラシの公開と、事前応募制のプログラムの参加もすでに受付中ですが、このブログでも改めて3日間の内容をお知らせします。
【予約なしで参加できるプログラム】
日時:11月3日(金・祝)~5日(日)、毎日10:00〜15:00に開催。いずれのプログラムも参加は無料ですが、展示室に入るものはコレクション展観覧料が必要なものもあります(中学生以下はコレクション展観覧料無料)。
★『かいとうキッズ、美術館の謎をとけ!』
対象年齢:5歳くらいから
これまで毎年開催してきたクイズ形式のプログラムです。“かいとうキッズ”になって美術館や作品についてのクイズに答えながら、館内を探検してみよう!
★『ミニミニワークショップ』
対象年齢:未就学児とその保護者
定員:5組(入れ替え制) ※予約不要で、入れ替え制となります。
美術館2階、“キッズスペース 森のたね”にて行います。アーティストのオーギカナエさんが制作した「森のたね」から3つの素材を取り出して「森のなかま」をつくります。小さな子どもを対象にした制作体験です。はじめてのワークショップに挑戦してみてください。
★『つくって、遊ぼう!コブウシくんとおすもうさん』
対象:小学生〜
定員:6人程度(入れ替え制) ※予約不要で、入れ替え制となります。
コブウシ土偶など美術館の作品が動く人形に。好きな色をぬって、つくって遊ぼう!
★『お面をつくって作品に変身!』
対象:3歳くらい〜
定員:10人程度(入れ替え制) ※予約不要で、入れ替え制となります。
美術館で展示中の作品がぬり絵になりました。ぬり絵に挑戦したら、お面をつくって変身しよう!
【事前応募が必要なプログラム】
以下の4つのプログラムは3日~5日の間に、各一日の開催となります。
HPイベント(https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/101589/)の詳細をご覧いただき、メールか往復はがきにてご応募ください。応募者多数の場合は抽選となります(応募の締切:10月23日[月]必着)
★『つくってわかる 額縁のひみつ』
日時:11月3日(金・祝) 13:00~15:00
参加者:小中学生とその保護者
定員:20人(応募1通につき4人まで)
美術館の作品に使われている額について探り、じぶんの額縁作りに挑戦します。
★『初めてのベビーカーツアー』
日時:11月4日(土)①9:30~10:10 ②10:40~11:20
対象:1歳半くらいまでのこどもとその保護者(ベビーカーか抱っこひもで移動)
定員:各回5組(応募1通につき3人まで)
赤ちゃんと美術館に行っていいの?という声に「もちろんです」と答えたいという思いから2019年に始めたツアーです。館内をベビーカーでお散歩しながら、他の赤ちゃんと保護者と一緒に作品を鑑賞します。
★『版画で仙厓さんの布バッグをつくろう!』
日時:11月4日(土)①10:00~11:30 ②13:30~15:00
講師:三枝孝司(九州産業大学芸術学部教授)
対象:小中学生とその保護者
定員:各回30人(応募1通につき4人まで)
版画のしくみや特徴を知って、コレクション展示「仙厓展」の作品を鑑賞して、講師の三枝孝司(さいぐさこうじ)さんと一緒に作品を布バックに刷ってみるワークショップです。
藤浩志《ヤセ犬》
★『アーティスト藤浩志さんとヤセ犬をつくって散歩する』
日時:11月5日(日)①10:00 ②11:00 ③13:00(制作は各回1時間程度)
講師:藤浩志(美術家)
対象:小中学生とその保護者
定員:各回6組(応募1通につき4名まで)
当館の所蔵作家である藤浩志(ふじひろし)さんと一緒に、藤さんの作品シリーズから「ヤセ犬」をつくって館内をみんなでお散歩します。
ファミリーDAY期間中は、上記のような催しを毎日盛りだくさんで開催するほか、前回のブログでご紹介した当館新収蔵作品、塩田千春《記憶をたどる船》https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/103846/や、10月25日(水)よりスタートする「幻の古陶・現川焼―田中丸コレクションを中心に」展(12月17日迄)もご覧いただけるなど、コレクション展示も充実しています。
現在、ファミリーDAYを担当する教育普及係と講師をお願いする先生やアーティストの方とで、11月に向けてどんなことをしようかという相談を重ね、頭をひねりながら準備を進めています。
ぜひ皆さまのご来館とプログラムへの参加をお待ちしています!
(教育普及係長 髙田瑠美)
2023年9月13日 15:09
2022年3月に「やさしい日本語」勉強中!というブログで、我々が「やさしい日本語」の研修を受けたことを紹介しましたが(ブログ執筆者は、当時の教育普及係長であった鬼本佳代子です)それから約1年半が経ち、当館でも「やさしい日本語」を使った多文化共生プログラムを始めています。
当館で開催しているやさしい日本語ツアーの様子
そもそも「やさしい日本語」とは何か?ですが、やさしい日本語は「難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語」*1 とされ、日本語を母語としない方へ災害情報を伝えたり、行政文書をわかりやすくしたりと、近年さまざまな利用方法が広がっています。
やさしい日本語が普及する中、福岡市に目を向けると、同市は全国的にみても外国人居住者が多い都市であり、2022年の調査では人口約160万人のうち、約4万人が外国人と報告されています。一方で、外国人居住者を対象にしたミュージアムでのプログラムは全国的にもほとんど例がなく、当館でもこれまで実施していませんでした。
また近年、国際的な博物館を取り巻く状況にも変化がありました。2022年にICOM(国際博物館会議)のプラハ大会で採択されたミュージアムの新定義で「博物館はインクルーシブであり、・・・多様性と持続可能性を育む。・・・」と定められました。ミュージアムは多様な文化的背景をもつ人々が、お互いの価値観を理解、尊重しながら、安心・安全に過ごせる場であることが使命のひとつであると定義されたことは、大変重要な出来事です。(博物館の新定義については2023年5月のブログに詳しく書きました。https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/85098/)
そこで、当館では2022年から、福岡市内に住む日本語を母語としない親子を対象に、当館のコレクション展を「やさしい日本語」で鑑賞するツアーを始めました。これは、福岡よかトピア国際交流財団と共催で実施しているプログラムで、まさに冒頭の2022年3月のブログで紹介した「やさしい日本語」研修で、同財団の高木美奈子さんと出会ったことで開催が実現しました。もともと、同財団では、福岡市に住む外国人や日本語を母語としない方へのさまざまな国際交流事業の実績があり、「やさしい日本語」を日常的に使っていたそうです。さらに多くの人に「やさしい日本語」を知ってもらう方法を探っていた高木さんと、私の考える美術館でのプログラムの方向性が重なり、今回このプログラムの実現となりました。
2023年は8月と11月に日本語を母語としない親子を対象に「やさしい日本語」の鑑賞ツアーを企画しました。8月の回には4組10名が参加してくれたのですが、実は、私にとって「やさしい日本語」を話すことはまだまだ初めてに近く、ツアーの前はとても緊張します。例えば、普段は、ツアーの前に参加者へ「これからコレクション展で作品鑑賞をします。コレクション展は観覧無料です。貴重品は身につけてご移動ください」などとご案内するのですが、これがやさしい日本語では「これから絵や彫刻(ちょうこく)を 見ます。お金はいりません。大切なものは もっていきます。」と言い換えられます。
美術館でできないことをイラストで確認しているところ。
ツアーの前にみんなで自己紹介タイム。
やさしい日本語には、ひとつの決まった答えがある訳ではありません。ですので、自分の言葉が相手に伝わっているかを、参加者の表情やジェスチャーを見ながら確認し、必要に応じて言い換えるということを繰り返しながら、一緒に作品を鑑賞していきます。ツアーでは、異なる文化的背景をもつ参加者たちが、コレクション展から選んだ作品を一緒に鑑賞します。当然、同じ作品を見ても、それぞれの発見や気づきは異なるのですが、その違いを分かり合えないものと否定するのではなく、尊重し合い、新しい解釈を作っていくことが、ツアーの面白さであり醍醐味です
近現代美術室の作品を鑑賞中
また、今回のツアーは対象と親子としましたが、それには理由があります。福岡市に居住する外国人には留学生の数も多く、その中には家族(配偶者やパートナー)の留学に同行し日本にやってきた人が一定数いるということです。そして、小さな子どもが一緒の場合も少なくありません。これは、仕事で滞在する場合も同じかもしれませんが、彼/彼女が大学で学んだり、仕事で出かけている間に、残された家族と子どもが安心して過ごせる場所がどのくらいあるのか。そんなことを考えて、今回は親子を対象としたツアーを行いました。
そして、今回参加してくれた親子が、次は自分たちでもう一度美術館へ行ってみようと思える手立てを作りたいと考え、福岡市美術館の利用方法や作品の説明を載せた「やさしいにほんご ガイドブック」を制作しました。今回のツアー参加者にも配布し、館内にも設置しています。
やさしいにほんごガイドブックは館内でも配布中
やさしい日本語のプログラムはまだ始まったばかりです。目に見える成果には時間がかかるかもしれませんが、昨年と今年と2年続けてツアーに参加してくれた9歳の女の子は「去年はやさしい日本語の話がわからなかったけれど、今年はわかって、作品のこともわかって楽しかった。」と嬉しそうに話してくれました。はにかみながら笑顔で手を振り帰っていった彼女のことが、忘れられません。今後もやさしい日本語のプログラムを続けようと心に誓うのは、こんな何気ない瞬間なのです。
*1 「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン2020年8月」p3、出入国在留管理庁・文化庁、2020年。
(学芸員 教育普及係 﨑田明香)