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福岡市美術館ブログ

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コレクション展 近現代美術

コレクションハイライト2026-27   「+と-」と「花と銃」と、時々、ラブストーリー

当館2階のコレクション展示室では、年に1度、大規模な展示替えを行っています。
今年度も、室内を大胆に模様替えし、ご覧のとおり、入口も明るくわかりやすく改装しました。

なんだかキラキラ・ピカピカです。この入口もさることながら、窓外の緑滴る樹々の美しさもまぶしく、清新なロビーになっています。
でも、アレ?と思われた方も多いのでは? 
実は、つい先頃まで、ここには小錦をモデルにした中ハシ克シゲ《Nippon Cha Cha Cha》がデ~ンと鎮座していたのです。その引っ越し先は後ほど紹介いたしましょう。

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入口で迎えるのは、おなじみのシャガール《空飛ぶアトラージュ》です。アイキャッチな作品として展示しました。加えて、展示の伏線に重要なポイントとして最初に置きました。伏線のことはまた後ほど…(「後ほど」が多くてスミマセン)。

マルク・シャガール《空飛ぶアトラージュ》1945年

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さて、「コレクションハイライト」とは、12,000点以上に及ぶ近現代美術のコレクションから、20世紀以降の優品を通年展示する企画です。
場所は、当館2階コレクション室のA室とずっと奥のC室。この離れた2室をゆるやかに結びながら、同時にそれぞれ独立した展示としてもご観覧いただくため、今回注目したのがモナ・ハトゥムの《+と-》です。

モナ・ハトゥム《+と-》1994/2024年

当館ではこの作品を、2024年に、コレクション室の各部屋をつなぐロビーに恒久設置しました。砂時計のような円の中をバーがゆっくりまわり、模様を形づくりながら、一方でそれを掻き消していくサイクルが永遠に続く作品です。その形とタイトルから、陽と陰、創造と破壊、生と死など対になる力が相互に作用しながら巡る理を伝えています。

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展示室A:「花と銃─予測不可能な地球に生きる」

今回、モナ・ハトゥムの《+と-》に通じるコンセプトをもつ作品として、最初の部屋には、インカ・ショニバレCBE《桜を放つ女性》1点だけを展示しました。

インカ・ショニバレCBE《桜を放つ女性》2019年

まるい部屋に入ると目に入るのは、咲き誇る桜とライフル銃を構えた地球儀の頭をもつ女性です。花と銃は、平和と暴力、創造と破壊、生と死を表象していますが、殺傷力のある銃から放たれているのが銃弾ではなく満開の花であることに、希望を感じさせます。
わたしたちは、ある日勃発する戦争で日常が一変し、のどかな翌日には自然の猛威にみまわれるうような、予測不可能な地球に生きています。今回の展示が、混迷する現実を直視しながら、なおも希望を見出そうとした各時代のアーティストの考えを伝え、また、現在に生きるわたしたちが、未来へのビジョンを想い描くうえで一助となるよう願っています。

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展示室C:「マイナスからプラスへ─予測不可能な地球に生きる」

C室では、マイナスのイメージの強い作品群からプラスのイメージが濃い作品群へとストーリーが展開します。

 

1. 怒りのるつぼ─暴力・矛盾・混沌

右 横山操《熔鉱炉》1956年
左 戸谷成雄《28の死 I》1989-90年

ここは、アーティストが怒りを込めて社会の矛盾や暴力がもたらす混沌や苦悩に向き合った作品群で構成しています。負のイメージを強烈に発する作品を見ると気鬱に感じられるかもしれませんが、各作品に渦巻くエネルギーは圧倒的です。ここでは、横山操《熔鉱炉》や戸谷成雄《28の死 I》のほかに九州派の作品、バスキア、ジム・ダイン、ウォーホル、キーファーなど欧米の錚々たる作家の作品をご覧いただくことができます。

 

2. 静かなる聖堂─祈りの絵画

右 サルバドール・ダリ《ポルト・リガトの聖母》1950年
中 マーク・ロスコ《無題》1961年
左 ジョアン・ミロ《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》1945年

次のコーナーにはあえて3点だけを展示しました。
中央にロスコの作品をおいたのは、ロスコが美術を宗教的体験を与えるもので、絵に向き合うことで人は精神的な経験をすると考えていたことによります。まさに祈りのための絵画です。
なお、この部屋は岩窟のイメージでデザインしています。照明も作品が浮き上がるように当てており、ロスコ作品の前には「ロスコチェアー」(勝手に名付けました)も置いています。もし、あなたに何か辛いことがあったら、どうぞこの椅子に座って気持ちを静めてみてください(もちろん懺悔でもOK)。

 

3. 生命いずるところ─アニシュ・カプーアとオチ・オサムの宇宙

右 オチ・オサム《球の遊泳》1979年、《カラスウリは不思議Ⅰ》1977年
中 アニッシュ・カプーア《虚ろなる母》1989-90年
左 アニッシュ・カプーアの版画 1988年

次のコーナーには、未来への希望を暗示させる作品として、アニシュ・カプーアの彫刻《虚ろなる母》と関連の版画、オチ・オサム《球の遊泳》等を展示しています。子宮や生殖器のようなカプーアの作品も、天体や体内の細胞構造のようなオチの作品も、何かを生み出す宇宙のように見えないでしょうか。
ちなみにこの細長い空間は子宮に通じる産道のように感じられるかもしれません。

 

4. 共生の明日へ─飛翔・調和・対話

中ハシ克シゲ《Nippon Cha Cha Cha》1993年

最後のコーナーは、「未来へ向かって立ちあがり共に生きる喜びを見出す」というイメージで作品を選びました。やはり最後は明るいプラス気分で鑑賞を終えてほしいからです。
そして、中ハシ克シゲ《Nippon Cha Cha Cha》はここにお引越ししました。外国人であっても日本で文化の担い手として共に生きる人々の存在に光をあててみました。白い空間で、これまでとは違った小錦に出会っていただけます。

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最後に伏線回収。

ザオ・ウーキー(趙無極)《僕らはまだ二人だ-10.3.74》1974年

展示室入口でご覧いただいたシャガール《空飛ぶアトラージュ》は、愛妻ベラを亡くして悲しみに沈んだ画家が再び絵筆をもったときの作品です。鑑賞者はそこから出発して、最愛の妻ガラを聖母に見立てたダリの《ポルトリガドの聖母》を経由し、最後にザオ・ウーキーの《僕らはまだ二人だ-10.3.74》に辿り着くことになります。
ザオもまた、妻の陳美琴を失って制作できなくなりました。この作品は、その深い喪失感から立ち上がった時期のものなのです。ふたつの尾根が果てしなく続くような雄大な自然はダイナミックで清浄。画家の苦悩を浄化するかのようです。「僕らはまだ二人だ」と語るこの絵は、亡き妻への切ない想いに満ち溢れています。
さて、うまく伏線回収できているでしょうか? 
全体に通底する「+と-」「花と銃」のストーリーとともに、これら3点のラブストーリーにうなずいていただければ、企画者冥利に尽きます。

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本展の会場は、一年にわたり建築家、デザイナー、照明デザイナーとともに設計し、厳しいスケジュールの中でも丁寧な施工や作品設置を担当してくださった作品展示、施工、照明の各会社のスタッフ皆さんのご尽力で実現いたしました。この場をかりて、厚くお礼を申し上げます。

・コレクションハイライト2026-27

(近現代美術係長 ラワンチャイクン寿子)

教育普及

夏休みこども美術館2026「宇宙にいきたい」開催中!

みなさんこんにちは。7月に入り、本格的に暑くなってきました。そして2026年も下半期に入りました!早いですね〜。

 さて、今年も「夏休みこども美術館」がスタートしました。福岡市美術館で1990年から毎年夏の時期に開催している教育普及プログラムです。今年のテーマは「宇宙」!今回のブログでは、なぜ宇宙をテーマにしたのかについて紹介します。

 こどもの頃、こんな言葉を聞きました。「宇宙というのはとても大きくて、そんな宇宙に比べたら私たちの存在なんてちっぽけだ。だから、宇宙のことを考えていると自分の悩みなんてのは、たいしたことないように思えるよ。」当時の私は、この言葉が腑に落ちませんでした。宇宙がどれだけ広かろうと私の悩みは変わらずそこにあると思ったからです。

 人間は大なり小なり悩みを抱えて生きているものでしょう。私も小さい頃から、とある悩みがあります。それは、自分のアイデンティティについてです。私は1歳になる前に日本に来ました。それ以来、こちらに住んでいます。自分が育った国は日本だけれど、国籍やルーツは日本ではありません。私は、いったい何人なのだろう…?普段は自分のアイデンティティについて意識をしていないのですが、ふとした瞬間にそれが悩みや苦しみとなって現れることがあります。そんな時は、宇宙人になれたらいいなあと思っていました。人間だから人種の分類がある、だけど宇宙人になれば人種も何もないだろう。人間である以上この悩みからは逃れられないと思ったので、人間であることをやめればこの悩みからは解放されるのではないかと考えていました。

 ですが、その考えが揺らぐ出来事がありました。好きな漫画を読んでいた時「宇宙人から見たらこっちも宇宙人」という言葉が出てきたのです。その言葉を目にした瞬間、時が止まったように感じました。あんなになりたいと思っていた宇宙人に既に私はなっていたのか?それならなぜ苦しいままなんだ…宇宙人になることで人間であるがゆえの悩みから逃れようとしていた自分にとって、この言葉は気持ちを混乱させるものでした。自分1人では気持ちを整理できそうになかったので、兄に相談をすることにしました。すると兄は、私たちは宇宙の中で生きているのだから宇宙人だとも言える、と言いました。その言葉を聞いた時、先ほどまでのモヤモヤはどこかへ行き、気持ちが晴れたように感じました。なぜなら、宇宙を遠く離れた別世界に存在するものだと思っていた当時の私にとって、あの果てしなく広がる宇宙の中で自分が生きていると知った時、自分の内面に広がる世界さえも広がったような感覚を味わったからです。

 この出来事があってから、「宇宙のことを考えていると自分の悩みなんてのは、たいしたことないように思える」という言葉の捉え方が変わりました。悩みそのものが消えることはないかもしれないけれど、宇宙の果てしなさや壮大さを想像することで、自分の心の持ちようはいかようにも変わるかもしれない。今回の展示がきっかけとなり、自分自身の内側にある世界が広がる機会となれば嬉しいです。

夏休みこども美術館2026「宇宙にいきたい」は8月30日(日)まで開催しています。関連プログラムであるワークショップへの応募は7月16日(木)までです。皆さんのお越しを心よりお待ちしております。

展示室の様子

(教育普及係 姜知潤)

コレクション展 近現代美術

美術館で、作品はどう守られているのか
アンゼルム・キーファー《メランコリア》公開修復のお知らせ

美術館の作品は、一度完成したら、その姿のまま長く残っていく。そんなイメージを持つ方も多いかもしれません。

けれど、その裏側では、作品を未来へつないでいくための地道な調査や修復が続けられています。今回、福岡市美術館では、所蔵作品であるアンゼルム・キーファー《メランコリア》の公開修復を実施します。普段は見ることのできない、修復家が実際に作品と向き合う現場を間近で見られる貴重な機会です。(開催情報については末尾に記載しています。)

作品の基本情報や画像は、本ウェブサイトの作品紹介ページをご覧ください。

今回対象となる《メランコリア》は、1989年に制作された立体作品です。内部は木材とウレタンフォーム、外側は薄い鉛板で覆われています。
しかし2021年、この作品頭部で鉛の一部が膨張・崩壊し、脱落するという損傷が発生しました(図1)。

図1 頭部から鉛板の一部が脱落して出来た穴

調査の結果、原因は作品の外側ではなく内部環境にありました。内部の木材やウレタンフォームから放出された有機酸やホルムアルデヒドといったガスが、長い時間をかけて鉛を腐食させた可能性が高いことが判明したのです。

ただし、原因が分かったからといって、簡単に内部を作り替えることはできません。
現代美術の保存修復では、「元通りに直す」ことだけが正解ではなく、素材や変化そのものが作品コンセプトの根幹を担っている場合もあるからです。

キーファーは、15~16世紀の画家アルブレヒト・デューラー《メランコリアⅠ》や、錬金術の思想に着想を得てこの作品を制作しました。鉛は、金(ゴールド)へ変化していく始まりの金属として古くから特別な意味を持っていました。また、柔軟に変形する能力を持つ一方で、密度が高いためにX線等の放射線から保護できるという特質も、作家が特に鉛に惹かれた理由でした。

つまり作家にとって鉛は作品を制作するうえで重要な構成要素であると同時に、鉛が変成すると作家が知った上で、あえて採用しているため、作品のコンセプトにも着目しなければなりません。そのため修復にあたり、美術館と作家側に確認した上で修復方針を検討しました。

「積極的に修復するのか」「現状を維持するのか」「劣化そのものを受け入れるのか」。

検討の結果、損傷した部分のみを補修し、作品の現在の姿を維持するという考え方を採用しました(図2、3)。

図2 修復中

図3 修復後

そして現在、さらに劣化が進行した鉛板について、追加の修復作業を行うことにしました。

今回の公開修復では、作品の保存と向き合う現場そのものをご覧いただけます。

完成した作品を鑑賞するだけでは見えてこない、「作品は時間とともに変化し、その変化と向き合いながら受け継がれている」という事実。美術館が担うもう一つの活動そのものを、ぜひ鑑賞ください。

 

【公開修復概要】

日時:令和8年7月7日(火)~7月18日(土)
            午前9時30分~午後5時30分
            ※日曜・休館日を除く
会場:福岡市美術館 2階 近現代美術室C
参加費:無料(コレクション展観覧券が必要)
※修復家の休憩等により、作業を中断する場合があります。
※作業進行状況により、修復家へのお声がけをご遠慮いただく場合があります。

作品を「見る」だけでなく、「守る」現場に出会える期間限定の機会です。ご来館をお待ちしています。

(学芸員 作品保存管理担当 渡抜由季)

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