2026年4月22日 09:04
福岡市美術館のソーシャルガイド
満開の桜はあっという間に終わってしまいましたが、今は新緑の鮮やかな緑に包まれている大濠公園です。個人的には、萌黄色の爽やかな風に吹かれるこの季節の大濠公園がとても好きです。
暖かくなり、外出する機会も増える春。大濠公園を散歩しながら、美術館に初めてご来館くださる方も多いのではないでしょうか。今回ご紹介するのは福岡市美術館の「ソーシャルガイド」です。
ソーシャルガイドは、主に発達障がいのある方とその家族や関係者に安心してご来館いただくために、美術館までの道のりや館内の様子を、写真や分かりやすい言葉で紹介したもので、ソーシャルストーリー、ソーシャルナラティブ等とも呼ばれます。当館でも、来館に不安を感じる方が、美術館に安心して来ていただけるように新しく制作しました。
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福岡市美術館のソーシャルガイド(部分)
当館のソーシャルガイドは昨年から制作を始めました。市内の特別支援学校や特別支援学級の先生方に試験的にご利用いただき、いただいたご意見を反映しながら、今年の3月に完成しました。4月からは当館ホームページに掲載しています。
障がいの有無にかかわらず、美術館に初めていらっしゃる方や、利用に不安を感じる方など、どなたでもご利用いただけます。下記のリンクからダウンロードできますので、ぜひご利用ください。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/guide/barrierfree/
「やさしい日本語」で楽しむ作品鑑賞
また、3月末には「お花見」をテーマに「やさしい日本語ツアー」を開催しました。同ツアーは福岡市に住む日本語を母語としない方を対象に、「やさしい日本語」でコレクション展を鑑賞するというものです。2022年から始め、これまで対象を「親子」に限定していましたが、ありがたいことに「大人が1人で参加したい!」という声が多数寄せられ、今年は「親子」以外にも対象を拡大し、たくさんの方にご参加いただきました。
ツアーでは、古美術と近現代美術のコレクション展から「お花見」をテーマに作品を選び、参加者と一緒に作品について語り合いながら、鑑賞をしました。当然、同じ作品を見ても各人が考えることは違います。しかし、大切なことは、作品を前に自分が思ったことを表現できること、そしてその意見がどれも同じように尊重されること、だと思います。同ツアーでは、私自身と参加者はもちろん、参加者同士も意見を交換しながら作品鑑賞をしました。その過程で、この至極当然なことを当たり前に行えることの大切さを改めて考えました。

「やさしい日本語ツアー」の様子

「やさしい日本語ツアー」の様子
また、「やさしい日本語」で当館のコレクション作品を紹介した冊子の第2弾も完成しました。下記URLよりダウンロードすることができます。コレクション展示室内にも配架していますので、ご来館の際にはぜひお手にとってご覧ください。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/topics/219624/

「やさしい日本語」の冊子はコレクション展示室内に配架中
(教育普及係 﨑田明香)
2026年4月16日 12:04
皆さん、はじめまして。
4月より福岡市美術館の館長に着任しました吉武です。
美術館では組織の変更がありまして、これまでの美術館運営業務と昨年まで私が担当していましたアートのまちづくり推進業務(通称:FaN)を美術館長が所管することになりました。
私は学芸員ではないため、美術の重要な部分は優秀な当館の学芸員さんにお任せすることにしまして、私は、これまで担当してきた市民のためのまちづくりやアーティストの成長支援などの経験を生かしながら、更に多くの市民の方などに当館の貴重な所蔵品を見ていただけるような事業を学芸員の方々と進めていきたいと考えています。
ここでは、これまで担当してきた「アートのまちづくり推進事業=Fukuoka Art Next(通称FaN)」について少し触れさせていただきます。
令和4年度からスタートした本事業は、「アートのある暮らし」と「アートスタートアップ」を2本の柱として市民の皆さんが身近にアートに触れる機会の創出やアーティストの成長支援に取り組んでいます。
皆さんがご存じであれば嬉しいのですが、メインとなる事業は毎年9月中旬ごろから開催しているアートイベント「FaN Week」と、旧舞鶴中学校を活用して開設したアーティストの成長・交流拠点である「Artist Café Fukuoka」の運営です。
これらの詳細はまた別の機会にお話しすることにしますが、4年間の取り組みにより少しずつではありますが、アートに接する機会やアーティストとの交流、福岡からアーティストを海外などにつないでいくことなどが実践できると感じています。
これまでの取り組みにおいて大変重要だと思っていることは、このアートのまちづくりの根本にはこれまで福岡市が積み上げてきた「福岡市美術館」と「福岡アジア美術館」があるということです。
2つの美術館は国内外から高く評価されるコレクションを所蔵しており、市民をはじめとする多くの方々に展覧会をご覧いただいています。
今後も福岡市美術館の展覧会などを楽しみにしていてください。
(館長 吉武寛志)
2026年4月8日 13:04
ただいま、当館1階の松永記念館室で「春の名品展」(~5月31日(日))を開催中です。このブログでは、本展で展示している《石菖図》(図1)についてご紹介します。
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図1 子庭《石菖図》元時代 14世紀 福岡市美術館蔵(松永コレクション)
石菖とは、渓流の岩場に生える植物で菖蒲に似た葉を茂らすことからその名があります。画面右下には、作者をしめす落款印章があり、本作を手がけたのが元時代の禅僧画家、子庭祖柏であることが分かります。
子庭は、枯木と石菖を得意としたといい、子庭による石菖図はいくつか知られています。いずれも本作と同様に柔らかく水墨を重ねた石と、濃墨で鋭く描かれた葉の対比が印象的な作品で、子庭の作風をよく伝えています。
今でこそ子庭の名はあまり知られてはいませんが、日本には室町時代には作品が伝わっており、非常に重宝されたことがいくつかの記録から分かります。今回の展示では、こうした子庭画の高い評価を裏付ける資料として、作品そのものだけでなく附属品も紹介しています(図2)。
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図2 右から①小堀遠州外題②狩野探幽、永真(安信)極札③狩野洞雲添状
②、③はいずれも探幽、永真(安信)、洞雲(益信)という狩野派絵師によるもの。本作の所有者から、彼らのもとに鑑定依頼のために持ち込まれた際に作られたと推測できます。②は真筆であることを保証するために発行された極札(図3)で、③は「真筆とみて疑いない」という洞雲の所見が記された添状です(図4)。
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図3 探幽、永真(安信)極札

図4 狩野洞雲添状
江戸時代における書画鑑定の様相を伝える興味深い資料ですが、①の小堀遠州による外題は、真贋の鑑定以上の情報を含んでおり注目されます(図5)。

図5 小堀遠州外題
本外題は、「石菖蒲」に続けて「柏子庭筆 珠光乃所持」と記しており、ここから、侘茶の創始者ともいわれる珠光が所持していたことが分かります。これとの関連がうかがわれるのが、江戸時代の始めに流布していた名物目録を集約した『玩貨名物記』の記載です。
本書は「御物分」(徳川将軍家所蔵分)と「諸方道具分」(諸大名や茶人たちの所蔵分)に分かれていて、それぞれ掛軸や茶入など種別ごとに作品を列記しています。この内、「御物分」の「御懸絵」の項目に「石菖蒲 柏子庭筆 珠光の所持 イ本に紹鴎」(図6)とあり、徳川将軍家のコレクションに珠光(異説には紹鴎)が所持した石菖蒲の絵があったと分かります。

図6『玩貨名物記』写
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2538865 (参照 2026年4月8日)
『玩貨名物記』の編者は不明ですが、本書の序文には小堀遠州の名物帳をもとに補足したとあります。①の外題にある「珠光所持」とある所見を記したのも遠州であったことを思えば、当館所蔵の《石菖図》と『玩貨名物記』に記載される徳川将軍家所蔵の「石菖蒲」が同一である可能性は考えてよいと思います。もっとも、「イ本に紹鴎」と記されるように、珠光所持という伝承は江戸時代の時点で既にあやふやになっていたようですし、最初に述べたとおり、子庭による石菖の絵は複数知られているので、さらに慎重な検討を必要とします。
とはいえ、徳川将軍家のコレクションに子庭による石菖蒲の絵があったことは、間違いなく、当館所蔵の《石菖図》とも関わる可能性が高いことも確かでしょう。また、徳川将軍家の他のコレクションに目を向けてみると、(伝)牧谿《遠浦帰帆図》をはじめ今なお名品として著名な作品も多く含んでいることも見逃せません。今でこそ子庭の名や作品の知名度は高くありませんが、当時は、こうした名画と並び称されるほどの存在であったのです。