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福岡市美術館ブログ

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コレクション展 近現代美術

福岡と小磯良平をつなぐ縁 ―記念講演会「幻の名作《日本髪の娘》との出会い」レポートー

 5月16日、ミュージアムホールで、現在開催中の「小磯良平展 幻の名作《日本髪の娘》」展(~6月21日)の記念講演会「幻の名作《日本髪の娘》との出会い」を開催しました。講師は、岡泰正先生(神戸市立小磯記念美術館 顧問)です。
 長年にわたる作品研究に基づき、小磯良平の生きざま、出品作品の見どころ、そして、この度の展覧会の目玉作品《日本髪の娘》をめぐるエピソードを教えていただきました。時おりジョークを交えてお話しされる姿に、会場からも笑いや感嘆の声が上がり、楽しい講演会となりました。
 今回のブログでは、担当者が印象深く感じたエピソードの一部をご紹介します。

講演会場の様子

小磯を巡るファミリーヒストリー
 小磯良平(1903-1988)は、兵庫県・神戸の旧三田(さんだ)藩の会計書記係の家系で、明治大正期に神戸居留地の貿易商に勤めていた岸上家の下に生まれました。この三田藩は、とても先進的な藩として知られ、英語学習もいち早く取り入れていたといいます。小磯の実母である岸上こまつ、養母である小磯英はいずれも神戸英和女学校(現・神戸女学院)の卒業生で、クリスチャンでもありました。また、国際的な文化人として知られる白洲次郎(妻、白洲正子)も三田藩儒者の家柄であり、三田藩の菩提寺・心月院に葬られています。
 岡先生が実際に現地を歩いて撮影された写真をご紹介いただくことで、土地勘のない私にも、神戸が古くから様々な文化の混ざりあう場所であったことを知ることができました。小磯は神戸に生まれ育ったからこそ、和洋折衷、コスモポリタンな感性をはぐくみ、制作することができたのです。

物質感を見る
 小磯は、単なる写実にとどまらず、油彩画という表現を追求していました。講演では初期作品から主に1930年代にかけての図版をたっぷりとご紹介いただきました。
 フランス留学中に描いた《ブルターニュ・ソーゾン港》(1929年)のような初期作品には、ラウル・デュフィ等に代表されるフォーヴィスム(野獣派)の流れとシンクロするような勢いあるタッチが見られます。岡先生はこれを絵の具の「物質感」と呼んでいました。
 写実的で正確なデッサン、肌・布・髪の質感の繊細な描き分けが小磯の特徴ですが、よく見れば、絵具の乗り方や筆運びには写実を超えたものが感じられます。彩色の物質感を目で追っていくことで、時代ごとに変化する小磯の野心や、描くことにかける情熱が伝わっていきます。筆のスピード感と、「物質感」を見る鑑賞法、おすすめです!

ブルターニュ・ソーゾン港1929年 神戸市立小磯記念美術館蔵

イメージソース
 《日本髪の娘》は、画面の真正面を見つめ返す記念写真的な構図ではなく、画面左に体を傾け、ふっと、視線を画面左手にそらしています。スナップショット的な構図です。このことによって、この絵のモデル(上田種子さんといいます)の持っている気品・アトリエのモダンな空気が伝わってくるのです。(このかつらを脱いで、早く街に買い物にでも行きたいわ…)という心の声をアテレコするのもありでしょう。
 岡先生は、この構図に影響を与えたものとして、エドガー・ドガの作品もご紹介いただきました。《アプサント酒を飲む人(カフェにて)》《ディエゴ・マルテッリの肖像》など、エドガー・ドガは、当時普及し始めた写真に触発されてこうした作品を描いたといいます。小磯は、ドガに学び、空気までも描きこむ人物像に到達していたのです。

《日本髪の娘》との出会い
 所蔵館である韓国国立中央博物館での調査時のお話も伺いました。2020年の調査まで、岡先生は《日本髪の娘》の実作品を見る機会がなかったそうで、複製でしか知らなかった作品と対面したときの喜びはいかばかりだったでしょう。貴重な現場の写真を投影しながら、その際のことを教えていただきました。
 実際に作品を前にし、岡先生は、「日本髪の娘の顔立ちが《着物の女》と同じであること」、「《踊り子》と額縁が同じであること」に気づかれたといいます。《日本髪の娘》と《踊り子》のこの2点は、どちらも1935年の第二部会展の出品作で、日本髪の娘が李王家美術館に収蔵されたことで、時代の流れの中で離れ離れになっていました。しかしながら、二つの作品のつながりはとぎれてはいなかったのです。
 会場では、この2点が90年ぶりの再会を果たしていますので、是非ご覧ください!

会場風景:《踊り子》と《日本髪の娘》の再会です!

「日本髪の娘」のモデル、上田種子の写真との出会い
 先ほど述べたように、《日本髪の娘》は上田種子さんという女性をモデルに描かれました。
 上田種子は、公選の神戸市議会議長・上田實の娘で、小磯のもとに絵を習いに来ていた生徒でもありました。関西の美術展や全国規模の美術展に入選するほど洋画制作に真剣に取り組んでおり、会場では彼女の手腕が見て取れるスケッチブックもご覧いただけます。
 岡先生は、小磯の「指向性」という言葉を用いながら、上田種子の姿が小磯にとって理想的なモデルであったこと、彼女をモデルとした作品が複数存在することを紹介されました。
 今回、上田種子さんのお姉様のご親族と岡先生とのご縁により、若き日の上田種子さんが、和服を着て立つ姿をとらえた写真が会場で初公開されました。その姿はまるで小磯作品から抜け出してきたかのようで、「上田種子の存在が小磯の和装婦人像を生み出したのだ」と思わずにはいられませんでした。
 こちらも、《日本髪の娘》との出会いをテーマとする講演会にふさわしい、心に残るエピソードでした。上田種子さんのお姉様は福岡にお住まいだったとのことで、福岡と小磯とをつなぐ縁があったのだ、と感慨深く思いました。

会場に並ぶ、上田種子がモデルと考えられる《洋和服の二人》(神戸市立小磯記念美術館蔵)《和服の婦人像》(姫路市立美術館蔵)《着物の女》(神戸市立小磯記念美術館蔵)

このたび見出された振り袖姿の上田種子さんの初公開写真 個人蔵

「アヒルの水かき」
 岡先生の講演中で印象的だった言葉に、「アヒルの水かき」という表現があります。 ためらいなく線を引き、一発で決めることができたように「まわりには見えた」小磯ですが、その制作の裏には人知れぬ努力の積み重ねがあったという意味です。うまくいかないデッサンもあったのです。
 小磯作品の美しさの奥にある絵画への熱意や人間ドラマ、努力する天才=水かき、の部分を知ると、作品を見る楽しみはいっそう増しますね。
 「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」の会期はあと1か月を切りました。ぜひお見逃し無いようお越しください。

忠あゆみ(近現代美術係)

 

 

 

教育普及

今年も、福岡ミュージアムウィークの時期がやってきました!

 5月はG.W.の連休があけたと思うと毎年、福岡市のミュージアム施設が参加する週間、「福岡ミュージアムウィーク」がやってきます。これは、博物館・美術館の役割を広く周知するために制定された「国際博物館の日」(5月18日)を記念して行うもので、2009年から始まった催しなので今年でもう18年目となります。
 2026年のミュージアムウィークの期間は5月16日(土)から24日(日)までの9日間。この期間中は、参加する18の文化施設でコレクション展、常設展の観覧料金が無料や割引となるほか、様々なイベントを行います。
福岡ミュージアムウィーク2026・公式サイト

  福岡市美術館でも、期間中にいくつかの講演会や館内のツアーを予定していますので、ブログでは事前予約不要でご参加いただけるものについてご案内したいと思います。

【期間中に行う講演会】
今年は会期中の週末に美術館1階のミュージアムホールにて、3つの講演会を開催します。

◆特別展「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」記念講演会◆
幻の名作《日本髪の娘》との出会い

日時:5月16日(土)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:岡泰正氏(神戸市立小磯記念美術館・神戸ゆかりの美術館 館長)

  講演会のひとつめは、特別展として開催中の、小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》(会期 6月21日まで)を記念する講演会です。この展覧会は、日本を代表する近代洋画家のひとり、小磯良平(1903~1988)の画業を辿るもので、福岡で回顧展が開催されるのは35年ぶりとのこと。そして展覧会の目玉となるのは、これも90年ぶりの里帰り(!)という油彩画作品、《日本髪の娘》です(展覧会印刷物のメインイメージとなっている作品です)。同作品は1935(昭和10)年に描かれ、第1回第二部会展に発表された後、李王家美術館の所蔵となって海を渡り、その後所在不明となっていたとのことで、現在は韓国国立中央博物館に収蔵されています。講演会では、講師の神戸市立小磯記念美術館の館長、岡泰正氏より、小磯良平の仕事や作品についてお話しいただくのと合わせ、《日本髪の娘》が見つかった経緯や、日本に里帰りするまでのいきさつについてお話しいただきます。展覧会を見るだけではわからない、裏話や貴重なエピソードを聞ける機会になるかもしれません。

特別展「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」チラシ

◆福岡ミュージアムウィーク2026記念講演会◆
高麗茶碗入門-茶の湯がつないだ日韓交流

日時:5月17日(日)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:片山まび氏(東京藝術大学美術学部芸術学科教授)

 翌17日(日)には、福岡ミュージアムウィーク2026記念講演会として、陶磁研究者の片山まび氏を講師にお迎えし、当館の古美術コレクション展示に関連するテーマで、「高麗茶碗入門-茶の湯がつないだ日韓交流」を開催します。高麗茶碗(こうらいちゃわん)とは、朝鮮半島で焼かれ、日本で茶の湯の茶碗として使われてきたやきもののこと。「高麗茶碗」は日本で呼び習わされている名称です。茶の湯の道具は、作られた場所によって中国で作られたものを「唐物(からもの)」、朝鮮半島で作られたものを「高麗物(こうらいもの)」、日本で作られたものを「和物(わもの)」などと呼び、現在でも様々な年代、産地で作られた工芸品を道具として大切に伝えてきました。講師の片山氏は国内だけでなく、韓国における国際調査にも参加され、日本と韓国の陶磁器を介した交流の歴史について研究されています。講演では、当館の古美術作品の中でも、茶道具の名品が多く含まれることで知られる、「松永コレクション」から、代表的な高麗茶碗についてお話しいただきます。

また、当館展示室1階の松永記念室では、講演にて紹介いただく高麗茶碗(6点)が並んで展示中です!(「春の名品展」、会期 5月31日まで)松永コレクションの高麗茶碗を一度に見られる貴重な機会となりますので、ぜひご覧いただければと思います。

《雨漏茶碗》朝鮮王朝時代16 世紀、 福岡市美術館(松永コレクション)

「春の名品展」[会期:3月24日(火)〜5月31日(日)]の展示の様子

福岡ミュージアムウィーク2026つきなみ講座スペシャル◆
美術と言語と現実―世界認識の原理―

日時:5月23日(土)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:中山喜一朗(総館長)

講演会の3つ目として翌週、23日(土)に開催するのは当館の中山喜一朗総館長が講師となって開催する、“つきなみ講座スペシャル”です。つきなみ講座は、当館の職員が日頃の業務や自身の研究について話したいこと、気になるテーマなどについてお話しする通年の企画です。仕事や美術にまつわる内容について紹介することで、より福岡市美術館のことを知っていただく機会にしたいということで、持ち回りで月に一度開催しています。5月は、通常の60分から拡大版のスペシャル講座ということで、中山総館長が昨年のつきなみ講座の続きとして、「美術と言語と現実―世界認識の原理―」というテーマで講演します。ちなみに、昨年の講座テーマは「美術と言語と人工知能」というお話しでした。パウル・クレーの作品やアンドレ・ブルトンの話題から次々展開し、言葉と美術、AIと人間の認識や判断の特性などについて、脳にたくさんの刺激が刺さる内容でしたが、今年どのような展開になるのかは、参加するヒトのみぞ知る、です。(去年の話を聞いていないから参加しづらいかも、と迷われた方は、昨年のことを話題にしたブログも残っています。こちらを読んでいただくと23日の講演のヒントになるのではと思います。)今年の講座を紹介する画像には、教科書で見たことあるなぁと懐かしくなったラスコー洞窟の壁画が採用されています。どんな内容になるのでしょうか?個人的にもとても気になるつきなみ講座スペシャルです。

ラスコー洞窟(フランス)の壁画《馬》

【期間中に行うプログラム】

 講演会の他にも、開館日の毎日11時と14時からはボランティアによるギャラリーツアーを開催します。これは、ミュージアムウィーク期間以外も行っているものですが、担当するボランティアごとにそれぞれが紹介したい作品を3点選んで、参加する皆さんと一緒に作品についてお話ししながら館内をまわります。ガイド担当者と参加者が変わるその度ごとに作品を巡る話題も変わるので、何度参加いただいても楽しんでいただけるかと思います。この機会にコレクション展にでかけてみようという皆さんにご参加いただければと思います。

 また、ミュージアムウィークの最終日、24日(日)13時からは、ボランティアによる建築見どころめぐりとして、当館の建築好きなボランティアによる美術館の建物を紹介するリレー形式のスポットツアーを行います。60分ほどの開催時間中は、途中から参加いただくことも、ご都合で抜けていただいくこともできる形で行いますので、美術館の作品だけでなく建物のことについても知りたい、という方におすすめいたします!

  毎年、福岡ミュージアムウィークの期間にはたくさんの方に来館いただいていますが、こちらにご紹介した催しに参加いただくのもよし、無料となるコレクション展をじっくり見る機会にしていただくのもよし、あるいは大濠公園を散歩するついでにお目当てだけ見に寄っていただくのもよしで、気軽に遊びに来ていただけたら嬉しく思います。それぞれの企画を準備しつつ、皆さまのご来館をお待ちしています。

(教育普及係長 髙田瑠美)

 

 

コレクション展 近現代美術

第4回福岡アートアワード授賞式の記念スピーチ

 2022年から始まった福岡アートアワードについて、ついに昨年度で4回目を迎えました。51名の応募の中から、市長賞は宮本華子さん、優秀賞が谷澤紗和子さん、川辺ナホさん、平野薫さんの4名が選ばれ、偶然にも全員女性という結果となりました。

授賞式の様子(左から順に、谷澤紗和子さん、宮本華子さん、高島市長、川辺ナホさん、平野薫さん)

 第4回福岡アートアワード受賞作品展が3月28日(土)から始まり、初日に開催した授賞式において、受賞者の方々の記念挨拶をいただきました。その挨拶文を作家許諾の上掲載いたします。

宮本華子氏(市長賞)

宮本 華子《在る家の日常》(2024年/インスタレーション)

 本日は、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。本作「在る家の日常」は、個人的に非常に大切な作品です。
相容れない家族という他者と、向き合うために制作を続けてきました。近年、両親よりも長く一緒に暮らした祖父母を家から見送りました。彼らの老いていく姿と、終わりは私にはとても悲しく、同時にとても美しく見えました。「在る家の日常」は、何処にでもある家の出来事を「家」を作ることで形にした作品です。
祖父母は大正 11・12 年生まれでした。 2 人は私にとって安心できる「家」 という存在を与えてくれた存在でした。 祖父母は彼らの時代の出来事をあまり語らない人たちでした。ただ彼らが、今在る日常を大切にして、人を大事にして生きていることは、一緒に暮らす中で感じていました。人は一人では生きていないのだと、誰かの手に助けられながら、生きているのだと 2 人は知っていたんだと思います。
この作品を作るために沢山の人が手を貸してくれました。それらの人たちは、今では大切な友達になりました。私は広い世界を知りません。 直ぐに自分のことで手一杯になります。目の前のことしか見えていないことが多いです。ただ友達になった人には、強く関心を持ちます。その人が過ごす土地にも興味を抱きます。4月から、母校の女子美術大学のプログラムでパリに 1 年間滞在します。大学の恩師である高間夏樹先生に「平和外交」が出来るねと言っていただき勇気が湧きました。祖父母が大切にしていたとを私も大切にしたいと思います。
最後にこの作品が地元九州の美術館・福岡市美術館に収蔵されることが本当に嬉しく、 心から有難く、ほっとしています。この作品は観た通り、家なので大きいです。家は家の中に置くには大き過ぎました。とても困っていました。そんな状況を知って、福岡アートアワードに応募することを助言し、そのために協力してくれた九州の大人たちに心から感謝しています。この作品に関わってくれた全てのみなさま、そしてこれから作品を観て下さるみなさま、本当にありがとうございます。在る家の日常を楽しんでいただけたら幸いです。

谷澤紗和子氏(優秀賞)

谷澤 紗和子《お喋りの効能》(2025年/切紙)

 こんにちは、谷澤紗和子です。
 本日はこのような賞をいただき、ありがとうございます。
 近年、異性愛男性中心的な美術の構造を問い直し、女性や多様なバックグラウンドをもつ芸術家の再評価が世界中で進められています。福岡市美術館は、日本において早い段階から収蔵作品における女性作家の作品調査を行い、その再評価の視点を明確に打ち出してきた先駆的な美術館です。
そのような視点のもとで築かれてきたコレクションに、自作を加えていただくことを大変光栄に思います。
 今回の受賞作の制作発表にあたりお力を貸してくださった皆さま、そして、女性の表現が十分に評価されることのなかった時代から、その歴史を丁寧に掘り起こす研究に携わられてきた方々に、心より感謝申し上げます。
 かつての日本では、権力に迎合することでしか表現の場を持ち得なかった時代がありました。とりわけ女性にとっては、自らの声を社会の中で言葉やかたちにすること自体が難しい歴史がありました。
そうした歴史を思うとき、いま私がこの場に立ち、自分の思いを表現できていることに深い幸せを感じています。
 表現者が自らの声を率直に届けられる世界は、決して当たり前のものではありません。
「表現の自由」が強い力によって脅かされることのない社会が、社会に参加する人々の力によって守られていくことを、切に願っています。
 本日はどうもありがとうございました。

川辺ナホ氏(優秀賞)

川辺 ナホ《樂園を探して(-Et in Arcadia Ego)》(2024年/インスタレーション)

 この度は、第4回福岡アートアワードにおいて《樂園を探して(-Et in Arcadia Ego)》の優秀賞をいただきありがとうございます。以前より、その活動を追い、素晴らしい作品を作られていると感じていた作家の皆様と、一緒にこの賞をいただけたことを、本当に光栄に思っております。
 この作品で福岡の賞をいただけたこと、私はとても特別で嬉しく思います。というのも、本作は2023年度に福岡アジア美術館でのレジデンスの機会に制作したものであり、インスタレーションに使っている石炭とシャモットは、福岡の地理と自然があってこそ形成されたものだからです。そしてまた、制作プロセスそのものが福岡の町で育った1980年代の記憶を、自分自身が改めて辿り直すような体験でもありました。この作品では、福岡の炭鉱の歴史とカーボンナノチューブの研究が、異なる時代でありながらも炭のリサーチを軸としてつながっています。かつて炭鉱はエネルギーとして社会を支え、現在では原子から人工的に生成される新素材が未来の技術として研究されています。かつて、当時、そして今も語られる技術革新がもたらす豊かな生活や輝かしい未来。未来がしばしばユートピアとして語られますが、私たちが生きている現在もまた、先人たち、そしてかつての私たち自身にとっての未来です。ではその中で私たちはどのような今を生きているのか、そしてこの社会や情勢の中でどのように生きていきたいのか。その問いを自分自身にも問いかけています。本作の制作にあたり、本当に多くの方に支えていただきました。たくさんの話を聞かせていただき、またそのコーディネートや制作にはレジデンス事業の皆様、技術協力の皆様、インストールチームの皆様のご尽力がありました。この場を借りて関係者の皆様に感謝申し上げます。
 今日は本当にありがとうございました。

平野薫氏(優秀賞)

平野 薫《空の衣服(untitled -war kimono-)》(2025年/インスタレーション)

こんにちは、平野薫です。この度はこのような賞をいただき、大変嬉しく思っております。
 私は誰かが使ったものに残る気配に着目して制作をしています。これまでは主に布に残る気配に注目して古着などの布を一本ずつほどき、それらを結び、繋ぎ合わせていくという方法で制作してきました。25年の間、その方法を用いて制作をしてきましたが、私は長崎の生まれでありながら、九州での発表の機会がなく、去年初めて福岡のエウレカで発表することができました。九州での初めての展覧会のために制作した作品が、このような賞をいただけたことに大変光栄に思っております。今後は福岡をはじめ、実家の長崎、そして広く九州での活動を視野に入れながら制作を続けていきたいと思っております。
 今回、福岡での展覧会の機会をくださったエウレカの牧野さんをはじめ、この賞にかかわるすべての皆様と、これまで私の活動を支えてくださった方々に心より感謝を述べたいと思います。ありがとうございます。

選考委員のコメントや作家による作品の説明等はリーフレットにも掲載しています。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/uploads/list_the4th_Fukuoka_art_award.pdf

 授賞作品はどれも本当に素晴らしいもので、改めて収蔵することの責任を強く感じるものでした。美術館としてしっかり保存・活用していきます。
 受賞者のみなさま、選考委員のみなさま、また応募していただいたすべてのアーティストのみなさま、また関わっていただいたすべての方々に感謝申し上げます。

(学芸員 作品保存管理担当 渡抜由季)

 

 

 

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