2023年5月10日 15:05
みなさん5月18日は「国際博物館の日」ということを知っていますか?ICOM(国際博物館会議)という国際的な博物館組織が1977年に5月18日を国際博物館の日と設定し、それ以来世界中のミュージアムでこの日を中心にさまざまなプログラムが行われています。
福岡でも、2009年からこの「国際博物館の日」にあわせ、福岡ミュージアムウィークを開催しています。今年は市内19の施設が参加し、5月13日(土)~21日(日)までの9日間、常設展の観覧料無料や、講演会、ワークショップなど魅力あるプログラムを実施します。
※福岡ミュージアムウィーク2023の詳細は下記リンクをご覧ください
https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/bunka/charm/fukuokamuseumweek.html
さて、先ほど紹介した「国際博物館の日」ですが、毎年ICOM(国際博物館会議)がテーマを決めています。今年は「Museums, Sustainability and Well-being」。日本語に訳してみると「博物館と持続可能性、ウェルビーイング(※1)」となります。
どうして国際博物館の日のテーマが「持続可能性」や「ウェルビーイング」なのでしょうか。実はミュージアムとはとても繋がりがあるテーマなんです。そのためにまず2022年8月プラハ開催のICOM世界大会で決定した、新しい「博物館の定義」を見てみましょう。
※1 福岡市のHPでは、well-beingを「身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、人々の満足度や充実、幸せなどを表す」と定義しています。
【定義の英文】
A museum is a not-for-profit, permanent institution in the service of society that researches, collects, conserves, interprets and exhibits tangible and intangible heritage. Open to the public, accessible and inclusive, museums foster diversity and sustainability. They operate and communicate ethically, professionally and with the participation of communities, offering varied experiences for education, enjoyment, reflection and knowledge sharing.
【日本語訳文】
博物館は、有形および無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関である。博物館は一般に公開され、誰もが利用でき、包摂的であって、多様性の持続可能性を育む。倫理的かつ専門性をもってコミュニケーションを図り、コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する。
(ICOM日本委員会、引用元サイト:https://icomjapan.org/journal/2023/01/16/p-3188/)
この新しい定義の中で、博物館は「誰もが利用でき、包摂的であって、多様性の持続可能性を育む」場であると、はっきりと述べられています。「コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供」し、いかに人々のウェルビーイングを高めることができるのか、また、さまざまな人々が多様な価値観を持ちながらともに生きる社会の中で、博物館はどのようにその人々や社会に貢献し、社会的使命を果たすことが出来るのか。個人的には、ミュージアムで働く者として、国際博物館の日はいつもその問いに立ち返らせてくれる大切な日でもあります。
福岡市美術館のミュージアムウィークに話を戻すと、今年はまさにそのテーマにぴったりの講演会があります。タイトルは「誰もが美術館を体験できるようになるには~美術館における『ユニバーサル』」とは何かを考える~」です。講師は、国立民族学博物館教授の広瀬浩二郎さんです。広瀬さんは、長年にわたり「触る」鑑賞や「触文化」について研究をされています。本講演では、そもそも視覚優位の考え方がある博物館(もちろん美術館も含まれます)を題材に、広瀬さんからユニバーサル・ミュージアムとは何かをテーマにお話していただきます。
■福岡ミュージアムウィーク2023記念講演会
「誰もが美術館を体験できるようになるには~美術館における『ユニバーサル』とは何かを考える~」
日時 2023年5月14日(日)14時~15時30分(13時30分開場)
会場 1階ミュージアムホール
定員 180人
講師 広瀬浩二郎氏(国立民族学博物館教授)
参加無料、先着順。13時30分から整理券配布。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/82478/

広瀬浩二郎氏

直方駅にある「魁皇」の像。背伸びをして正面から鎖骨をさわる広瀬先生
他にも、当日予約なしで参加できるプログラムがあります。
■つきなみ講座スペシャル 仙厓さんのすべて(6)
数多い仙厓の禅画の中でも最高難度の作品「〇△□」を、あらゆる角度から考えてみます。そこに、禅の真理と仙厓の目指したものの一端を読み取ることができるかもしれません。
日時 2023年5月20日(土)14時30分~16時(14時開場)
会場 1階ミュージアムホール
定員 180人
講師 中山喜一朗 (総館長)
参加無料、先着順。14時から整理券配布。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/73287/
■ボランティアによるギャラリーツアー
当館のガイドボランティアが展示中のコレクションから3点を選び、一緒に鑑賞するツアーです。
日時 休館日を除く毎日 11時~、14時~(約40分)
集合場所 1階ロビー
料金 ミュージアムウィーク期間中(5月13日~21日)は無料
※普段はコレクション展観覧料200円が必要ですが、ミュージアムウィーク期間中は無料になります。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/3971/
皆さまの参加をお待ちしております。
(学芸員 教育普及担当 﨑田明香)
2023年5月5日 14:05
初めてブログに登場します、この春に福岡市美術館の一員となりました、髙田です。これまで現代のやきものを扱う私立美術館の学芸員として働いてきましたが、4月から教育普及担当として福岡市美術館の活動に加わりますので、どうぞよろしくお願いいたします。いまは新しい職場に飛び込み、汗をかきながら仕事に取り組んでいますが、今度の転職に伴い初めて九州に住むことになったので、実は福岡市に引っ越してきてからもまだ一か月余り。福岡は外食でもスーパーでもお肉のクオリティが高いな、とか、街に自転車屋さん多く感じるのは気のせいだろうか?など、毎日美術以外のことにも好奇心を膨らませてアンテナを張りつつ過ごしています。
このブログでは、教育普及活動やプログラムをご紹介することが多くなると思いますが、今回はブログの担当もお初ということで、個人的な感想になりますが、働き始めた福岡市美術館の建物についてとくに素敵だな、と感じたことがあり、お伝えしてみたいと思います。
就職試験を受けに来た時には、緊張で施設をじっくり見まわしたり観察する余裕は全くなかったのですが、改めて通い始めると、福岡市美術館の建物にはおお!と感動する造作ポイントが色々あります。中でも気になったのが美術館の「壁(タイル)」です。

設計者の前川國男さん(1905~1986)は日本を代表する建築家で国内各地の美術館を手掛けており、福岡市美術館もそのうちのひとつ、1979年の竣工です。前川さん設計の美術館といえば、東京都美術館もたしかに外壁が茶色くてこんなカマボコ型アーチのあるエントランスだったな、そういえば地面もタイル敷の模様のあるものだったなと、私自身の記憶の中の前川建築の印象につながる特徴を見つけたのですが、福岡市美を眺めていると、なんだか外壁の色合いが独特で、とても深みがあってピカピカしているのが気になります。そこで遠目からは茶色一色に見える壁面に近づくと、釉薬の掛かったタイル貼りであることがわかりました。ただ、そのタイルは場所によって形が様々で、貼り方も建物の一階辺り、下側は横向きにタイルが貼り渡してあるのに対して、上の方は正方形のタイルを斜め45度に傾けていたり(「四半張り」というそう)、かなり複雑なやり方をしています。
興味が湧いて調べてみると、建物外装にタイルを使うのは前川建築の特色のひとつで、耐久性を高めるため「打ち込みタイル」という独自の工法を編み出し、設計する現場ごとに形や焼き方も工夫していたということを知りました。写真に写るタイルに開いた丸い穴は、壁をコンクリートの打ち込みで施工する際に、生コンクリートを流す型枠と桟木にタイルを固定した跡で、これによって壁とタイルがしっかり一体成形されるため、タイルが剥落しにくくなり、堅牢性が高まるのだそうです。

壁面のタイルには所々穴が開いています
さらにタイルをじっくり観察してみると、微妙に異なる焼き上がりの釉薬の色、表面の艶感や下の素地のザラザラとした味わいが、やきものとして見てもとても魅力的に思えてきます。タイルの形も、角や切り口はシャープに処理されているのに個々のラインには手仕事のような揺らぎや柔らかさがあり、なんだか贅沢さを感じます。

たっぷり掛かった釉薬がカリントウみたいで美味しそうに見えてきました
タイルの種類としては、「磁器質タイル」(タイルの規格分類で使用される素材、吸水率の違いで分けられる)と呼ばれるものとのことですが、釉薬の下の素地にはかなり粗い砂のような粒が見えており、これはやきものの粘土として考えると、土に含まれる珪石(石英)の粒だと思われます。陶器にもこうした粒が入った粘土はよく使われていて、ちょうど、6月11日(日)まで1階の古美術・コレクション展示室に出品中の《信楽檜垣文壺》(15世紀)の表面にも、少し似た肌合いを見つけることができました。美術館の壁面タイルが作られた愛知県常滑市と、壺の産地である滋賀県の信楽は、どちらも古くからの伝統がある窯業地です。建物の壁面と壺ではスケール感がだいぶ異なりますが、どちらもやきものという括りで見ると、そうか、つながりが無いとは言えないなぁと、美術館の周りをぐるりと巡って歩きながら考えました。信楽壺の方は美術品としてケースに入り、触れることが出来ませんが、美術館の壁は触ることが可能です。壁のタイルに触れて様子を確かめていただいてから壺を見ると、感触が少し想像できるかもしれません。

《信楽檜垣文壺》(15世紀)松永コレクション
今回はこのまま美術館の外の話で終わってしまいますが、連休明けの5月13日(土)~21日(日)は、「福岡ミュージアムウィーク2023」が開催となり、期間中はコレクション展の観覧料が無料となります。どうぞ足を運んでいただき、建物と展示作品の両方を楽しんでいただければと思います。初めのてのブログに何を書こうかなと思い、まずは気になった美術館の壁をおして(推して)みました!
(学芸係長 教育普及担当 髙田瑠美)
2023年4月26日 09:04
どーも。総館長の中山です。
おおむかし、新人学芸員になりたての頃、ひそかに四つの目標を立てたんです。①観覧者10万人以上の展覧会。②専門誌『国華』に論文。③立てても倒れない本を出版。④すごいお宝作品を発見。いやはや、われながらガキでした。しかしラッキーなことに10年もたたないうちに全部叶えられました。当時は、「…ということは、あとは余生だな」などと好き勝手に解釈し、好き勝手なことばかりしていたような気がします。
一番むずかしいと思っていた④の目標を叶えてくれたのが、いま古美術のコレクション展示室で開催中の「全部見せます!岩佐又兵衛《三十六歌仙》」で展示している「三十六歌仙絵(若宮本)」なんです。あれは学芸員になって4年たった1985(昭和60)年の正月のことでした。
「これ、近くの神社が放生会のときに公開した室町時代の歌仙絵らしいですが、どうなんでしょうか」とスナップ写真を見せてくださった宮若市在住の小田さん(当館に作品を寄託されていた)。そんな値打ちがあるのかしらという小田さんのお顔を今でも思い出します。ひと目見て「やばい!これ岩佐又兵衛かも。だったらすごいけど…」と心臓がバクバク。しかしそこはそれ、専門家ヅラして自重し、「そうですねえ。添え状からすると、和歌の筆者は室町時代の公家たちだということですが、絵のほうは画風からして室町時代まで遡らないかもしれません。でも江戸初期くらいはあるかなあ。いい作品だと思います。…あの、これ、その…実物を見られますかね」
調査が実現したのは5月15日。当時の若宮町役場の会議室。いろいろ事情があって、歌仙絵は神社ではなく町役場の収入役の金庫にながーいあいだ、しまわれていたんです。収入役や若宮神社の宮司斎藤さん、神社の奉賛会の会長だった有本さん、小田さんなどが見守るなか、わたしに同行してくれた先輩学芸員の田鍋さんとともに、けっこう古びて傷んでいる折本装の最初の表紙をおそるおそるめくりました。現れたのは御簾越しに描かれた後鳥羽院。

後鳥羽院・若宮本
ああやっぱり、これ又兵衛だと、また心臓がバクバク。36枚すべてを写真撮影したり採寸したりしたあと、「あのこれ、岩佐又兵衛の真作だと思います。又兵衛は江戸初期に活躍した有名な絵師で…」と黙って見守っていたみなさんに説明しました。みなさんキョトンとされてたなあ。
「いわさまたべえ? 誰ですな? …後藤又兵衛の親戚ですかいな?」
「アハハ。違います。織田信長に謀反した荒木村重の息子です」
それからめまぐるしく色んなことがありました。学会での発表。新聞の一面報道。NHKの番組制作。当館への寄託。一冊五万円の復刻版制作(千部完売)。全面的な修復。福岡県警のパトカーが先導してくれた里帰り展示。地元の温泉旅館に「三十六歌仙の湯」もできたりして…。
岩佐又兵衛の歌仙絵で36枚すべてがそろった二組目(一組目は埼玉県川越市の仙波東照宮にある重要文化財の扁額作品)として美術史界では全国的に有名になった若宮本が呼び水となり、永らく所在不明だった「三十六歌仙絵(旧上野家本)」が出現して首尾よく当館が購入したことは、なかでも大きなトピックだったと思います。これで全揃い三組中二組が福岡市美術館に収蔵されたわけですから。

柿本人麻呂・旧上野家本
ということで現在開催中の「全部見せます!岩佐又兵衛《三十六歌仙》」には、裏話がてんこ盛りです。若き日の傑作である旧上野家本と、名を成した晩年の若宮本が全部そろって展示されているのですから、見比べてみる絶好の機会です。描かれている歌仙の顔ぶれも表現も、全然違いますよ。それに、両方ともなかなか解けない謎もあります。
さて、摂津有岡城で城主荒木村重の落胤として生まれ、まだ二歳だったときに父村重が信長に反旗を翻し、乳母に背負われて攻め落とされる城から命からがら脱出した又兵衛は、信長と敵対していた石山本願寺に匿われて京都で育ちます。成長した彼は武門の再興をあきらめて絵師として生きることを選び、京都、福井、江戸へと活躍の場を移しながら、晩年は絵師としての名声を得ていくのです。
数奇な運命に翻弄された人生を送った又兵衛ですが、まさか縁もゆかりもない福岡(じつは結構あるのですが)で歌仙絵の両極ともいうべき自作がずらりとならべられているなんて、絶対にびっくりしてると思います。
(総館長 中山喜一朗)