2021年1月29日 09:01
「あの人の作品は持っとうと?」
「あの作品の名前なんやっけ?」
お困りですか。所蔵品のお問い合わせはよくあるんです。「所蔵品検索」を使って、すぐに解決できますよ!当館のウェブサイトには、いつでも、どなたでも1万6000点を越える所蔵品を様々な条件で検索できる「所蔵品検索」機能があります。すごく便利なんです。でも、 展覧会と違って注目されないので、なかなか気づいてもらえません。
「そんなに便利な機能なら、はよ、知りたかったー。どうやってやるん。」
検索してくれるんですか。うれしい!では、まずトップ画面の太字「コレクション」にカーソルを合わせて、「所蔵品検索」をクリックすると検索画面が出てきます。
「どんな作品かは思い出せるんやけど、作品名が分からーん。」
よくありますよね。作家名や作品名、どちらも分からなくて大丈夫です。例えば、古美術を選択し、何も入力せずに青い検索ボタンをクリックします。
作品画像がずらっと並んで表示されましたか。すてきでしょ。当館の古美術の所蔵品が一度に検索できました。気になる作品をクリックすると、作家名や作品名のほかに、サイズや素材も分かります。例えば気になる作家を見つけたら、今度はその作家名を条件に入れて検索してみてください。すると、どんな作品を何点所蔵しているのかが分かります。近現代美術も同じ方法で検索可能ですが、色々とややこしいのでやめておきましょう。
「なんなん。気になるやん。」
「近現代美術は何ももってないやん。でもこの前、展示室でシャガール見たばい。」
この画面、しーんとしていますが作品はあるんです。当館ではシャガールの作品を確かに所蔵しています。古美術と違って画像が表示されないので、作品がないといつも疑われますが、「該当する所蔵品が見つかりませんでした。」と表示されない限り、所蔵しています。
「なんで画像が入ってないとよ。作品名だけじゃどんな作品か分からんやん。」
おっしゃり通りです。でも、著作物は著作者の死後70年まで保護されているため、画像によっては、著作権法の制約を受けて公開できません。
「どうにかならんと?また疑われ続けるばい。もったいない。作品画像があるだけで、もっと検索してくれる人ふえるんやないん?」
そんな心配してくれて、ありがとうございます。私の力ではどうにもならないと言い訳してきた毎日でしたが、実は平成30年5月25日に、「著作権法の一部を改正する法律」が公布され、32,400画素以下の画像(サムネイル画像)であれば著作(権)者の許諾がなくても作品画像をウェブ上に公開できるようになりました!ちなみに、サムネイル画像はだいたい長辺が5センチくらいの小さな画像です。
「ちっちゃいわ!まあ、無いよりましか。」
私もそう信じています。サムネイル画像は作品の色や質感を忠実に伝えるものではありませんが、図柄や色を確認するのにはきっとお役に立てるはず。
「だんだん作家名を思い出してきた!検索してみよっと。」
今までの努力が報われます。只今、パーフェクトな所蔵品検索ページを目指して作業に没頭中です。一日も早く皆さんに、当館の近現代美術作品を知っていただきたいと思い、これまでに作品画像、約1,500点を毎日コツコツ、サムネイルにしてきました。来週2月5日(金)、ついに1,500点の作品画像を公開します!今後もコツコツ作業を続けて、作品画像をまとめて公開いたします。まずは2月5日の画像公開をお楽しみに!!
(学芸員 臨時職員 川人未来)
2021年1月13日 17:01
1月5日に、近現代美術室Bで企画展「ソシエテ・イルフは前進する 福岡の前衛写真と絵画」がスタートしました。ソシエテ・イルフは、1930年代半ばに福岡で結成され、シュルレアリスムや抽象芸術を吸収し、写真、絵画、工芸デザインと、それぞれのジャンルで創作をしていた前衛美術グループです。
今回の展示は、1987年以来2度目の回顧展です。34年ぶりの展示の準備は、1987年の展覧会で紹介していたメンバーの作品や資料が見つかるか、若干の不安を抱えていました。所蔵者の代替わりによって資料が散逸することは珍しくないからです。しかしながら、イルフメンバーのご遺族や作品を所蔵する美術館はもちろんのこと、多くの研究者の方々にご協力いただき、当初の予想を超えて多くの資料を展示することができました。一部散逸はあったものの、《イルフ逃亡》をはじめとするメンバーの作品のほか、新出資料として作家の旧蔵アルバムや蔵書、イルフの会友として親交を持っていた渡辺與三(清次郎)の作品を展示しています。
「ソシエテ・イルフは前進する」という熱い宣言文から窺われる通り、戦争の真っただなかで活動を続けた彼らの志は高く、短い活動期間の中に様々なドラマがあります。すでにイルフを知っている方もそうでない方も、今回の展示資料からドラマを読み取っていただけると思います。今回のブログでは、そんな展示のみどころの一部をお伝えします。
展示室前半の様子
本展は、大きく分けて前半・後半の二つのセクションに分かれています。前半には、グループとしての活動や時代背景を示す資料のほか、写真を撮影していたメンバーが個人的に所有していたアルバム、雑誌などを大きなテーブル型のケースと壁面を用いて展示しています。
前半で紹介している資料の特徴は、彼らの手の痕跡が追体験できることです。
吉崎一人が旧蔵していた1938年版の『日本写真年鑑』(朝日新聞社)はその一つです。『日本写真年鑑』とは朝日新聞が主催する月例写真懸賞の入賞作品をまとめたもので、その年に発表された写真の集大成です。ここには吉崎の《カーヴ》が掲載されていますが、吉崎は、作品が掲載されたページに赤ペンで線を引いているのです。熱心に作品懸賞に応募していた彼の充実した心持が想像されます。
久野久や吉崎一人(註1)、高橋渡によるアルバムにもご注目ください。久野と吉崎のアルバムは、まるで画集のように紙焼き写真を貼り付け、その横に端正な文字でタイトルを記入しています。その文字は写真によって文字の調子が異なり、作品のテーマに合わせてレタリングを考案していたと思われます。高橋のアルバムは、コンタクトプリント(註2)を整理したものです。海辺で撮られた写真が多く、砂浜でマネキンや貝殻などを配置した正方形の画面が並びます(インスタグラムのトップ画面を連想する方もいるかもしれません)。プリントの一枚一枚は遊び心に満ちており、眺めていると、高橋が熱意をもって撮影に臨んでいたことが感じられます。
こうしたアルバムは彼らの創作の過程の記録であるだけでなく、モチーフや撮影手法に対する関心のありようを雄弁に語ります。彼らの作品にはシュルレアリスムを取り入れた「前衛写真」や、被写体から特定の意味づけを取り払って純粋な造型に着目した「新即物主義」の要素を見ることができます。
長崎に続き幕末期に写真をいち早く取り入れた都市である福岡では、1930年の時点ですでに17ものアマチュア写真団体がありました(註3)。既にグループに所属しているものもいましたが、新たに「イルフ」というグループを結成した背景には、前衛芸術への関心や好奇心、撮影という行為そのものへの愛着といった共通点があったことでしょう。
彼らはやがて産業奨励館やブラジレイロなどをたまり場にし、連れ立って写真撮影に出かけ、定例会を開いて互いに作品を批評しあうようになります。彼らの活動拠点を地図で確認すると、西中洲を挟んだ両岸の地域というごく限られた場所であったことがわかります。地図とケース内の資料を照らし合わせると、手の痕跡とともに、モダン都市を軽やかに歩く7人の足取りも感じられます。
資料を紐解くごとに、「幻の前衛美術集団」だったイルフが徐々に実態を持った人間たちとして感じられてきます。このことは、今回展覧会のための資料調査を通して得られた大きな収穫でした。
今回の展覧会を記念し、図録を発行しています。オンラインショップでも販売しておりますので、今は直接会場に行けない…という皆様も、ぜひ34年ぶりの回顧展をお楽しみください。
(イルフの作品を展示している展示の後半については、またいずれお伝えします。)
(学芸員 近現代美術担当 忠あゆみ )
註1 スライドでのみ紹介
註2 フィルムを印画紙に直接プリントし、どんな写真が撮れているかなどをチェックするもの
註3 『写真界重要記録』朝日新聞社、1930-1931年
2021年1月9日 13:01
どーも。総館長の中山です。あけましておめでとうございます。と、ご挨拶するのも躊躇するほどコロナ禍がおさまりませんね。一都三県に8日から緊急事態宣言が発令され、福岡でも感染拡大が続いています。どうしましょう。
昨年12月に、柳川の立花家史料館の植野館長から「史料館、存亡の危機です」というお話を聞き、心底驚きました。入館者が激減しているミュージアムはたくさんあります。というか、当館も含めすべての美術館、博物館の入館者が大幅に減っています。特に旅行者や観光客などの団体入場が多い施設は大打撃です。また、立花家史料館を運営している立花財団は、公益財団法人ゆえに利益を蓄えておく内部留保ができず、このままでは「来年の春には財団の解散が余儀なくされ、資料も散逸ということになりかねない」と。そこで立花家史料館は、何とか今年の11月までは運営できるようにと600万円の目標額を設定したクラウドファンディングを始められました。私も微力ながら応援メッセージなどを書かせてもらいました。
うれしいことに、開始当日に寄付は目標額に達し、1月7日現在では1600万円を超える寄付が集まっています。戦国武将の人気ランキングで常に上位を占め、大河ドラマの主人公の資格十分な立花宗茂公も喜んでおられるでしょう。立花家の什宝と史料館の活動が、地域を超えていかに多くの人に愛されてきたかということの証明でもありました。
しかしです。当面の危機は脱したかもしれませんが、地域のかけがえのない文化財を守り公開していくミュージアムの財政基盤がこんなに脆弱なものでいいのかと考えさせられました。公益財団法人ゆえに内部留保ができないというのも、なんとなく引っかかります。存続できなければ、公益に資することもできないのですから。
アニメや漫画をはじめ、自由な表現活動があり、長い歴史と文化財があり、さまざまなミュージアムがあること、そういう文化の多様さ、豊かさに共感し、支えていくことは、いまの日本、これからの日本にとってとても大切なことなのだと感じました。
年の初めから堅苦しい話になりました。肩の力を抜いて、リラックスできますよう、私からかる―い年賀状をみなさんに送ります。やっぱり、あけましておめでとうございます。
総館長 中山喜一朗