2019年11月29日 12:11
みなさま、こんにちは。
毎年11月3日の開館記念日に合わせて開催している「ファミリーDAY」。今年は11月2日から4日の3日間で開催しました。「ファミリーDAY」では開催期間中館内各所で、小さな子どもから大人まで楽しめる鑑賞プログラムやワークショップを実施します。今回はリニューアルオープン後初めての「ファミリーDAY」だったためか、注目度も高く多くの来場者に恵まれ無事に終えることができました。わたしは今回初めてこちらの企画を担当しまして、自分にとっては重圧で思うように仕事が進められず死んだほうがいいんじゃないかと思いながら準備をしてきましたが、ひとが来てくれてひとまず安心しました。
それでは、実施したプログラムについて振り返っていきたいと思います。
3日間毎日おこなっているプログラムは3つありました。
1つは展示している作品に因んだぬり絵をおこなう「ぬってみよう!はってみよう!」です。実際の作品の色やかたちを想像しながら制作してもらい、完成したら作品をみにいってもらいます。1階ロビーでおこなっていたので、たくさんの人の目にとまり参加者が多かったです。
「ぬってみよう!はってみよう!」
2つ目は2階のキッズスペース 森のたねで行った、はさみが使えないような幼い子でも作品制作ができる「ミニミニワークショップ」です。大きなタネの中から取り出した素材をつかって森のなかまをつくります。小さな子どもが夢中でものを作る姿に保護者の方も真剣に向き合っているようでした。
「ミニミニワークショップ」
3つ目は「かいとうキッズ お宝みっけ!」です。こちらは、館内とコレクション展示室をまわって作品または作品の一部のシルエットをたよりにこたえをみつけるワークシート式のクイズです。問題は全部で5問あります。子ども達は地図をみながら1階と2階の展示室をめぐり、答え探しに夢中になっていました。スタッフのなかには「子どもだけでなく大人がやっても楽しい!」という意見もあがっていました。かいとう(怪盗・回答)は人のわくわく感を刺激するようです。
「かいとうキッズ お宝みっけ!」
スペシャルプログラムもみていきます。
今回初めての試みとなる「初めてのベビーカーツアー」(11月2日・3日実施)。こちらは現在子育て真っ最中の﨑田学芸員が考えた企画です。なんとなく、小さな子ども連れでは美術館には敷居が高いなと感じている保護者の方々に、美術館はキッズスペースや授乳室といった館内設備を含め、小さなお子様連れでもアートに親しめる・楽しめる場であることを知っていいただける機会となりました。参加者にも大好評でした。
「初めてのベビーカーツアー」
11月2日に実施した「わくわく!立体でつくる絵の世界」では、ジョアン・ミロ《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》を鑑賞します。じっくりみたあとに、ひとつ形を選んでもらい、もしも絵の世界からその形が飛び出てわたしたちの世界にきたたらどんな感触でどのくらいの重さなのかを想像してもらい、それをスケッチしてもらいました。そのスケッチをもとに好きな素材をつかって形にします。参加者は絵から想像を膨らませて絵には使われていない色を用いたり、つるつる・ざらざら・ふわふわなど手触りも意識して制作していました。出来上がった作品はどれもチャーミングでした。
「わくわく!立体でつくる絵の世界」
11月3日の「ぼくもわたしもほとけさま。ほとけさまの服をつくろう!」では、まず東光院仏教美術室の仏像を鑑賞します。鑑賞をはじめた子どもたちは鋭く、服装やポーズ、表情などから仏像たちの違いにどんどん気づいていました。仏像を鑑賞したあとに、もし自分がほとけさまになったらどんなほとけさまになるか想像し、ほとけさまになったときの服を考え制作しました。参加した子どもたちは、布やリボン、ボタンなどの素材を自由に使って自分の考えたほとけさまの服を作っていました。観察した仏像が背中に背負っていた光背を自分の制作に取り入れて頭から生やしている子もいました。今回は保護者もいっしょになって制作に没頭していたので、次は保護者自身も考えて子どもとは別に制作するプログラムにすると良いかもしれないと思いました。次回への反省点です。
「ぼくもわたしもほとけさま。ほとけさまの服をつくろう!」
そして最終日は、九州産業大学の三枝孝司さんを講師にお招きし、現在展示している企画展「仙厓―小西コレクション」にちなみ、江戸時代のアーティスト仙厓さんが描いた動物や人物といった作品をもとにシルクスクリーンという版画技法をつかって手ぬぐいを作りました。まず参加者は青・黄・赤・白の中から1枚好きな布を選びます。次に、あらかじめ用意しておいた版のなかから刷りたいものを3つまで選んで参加者自身で刷りの作業を行います。しっかり両手で持って力を込めてスキージ(刷るときゴム板)を移動させると、版絵の形にインクがつきます!予定枚数があっという間に無くなり大人気でした。子どもたちは初めてのシルクスクリーンに真剣に取り組み、完成した手ぬぐいを大事そうに持って帰っていました。
「仙厓さんの手ぬぐいをつくろう!」
以上「ファミリーDAY2019」を振り返ってきましたが、担当として反省する部分も多かったです。ただ、ご参加いただいた皆様に少しでもなにか美術館でおもしろいことができた、楽しかったと思っていただければ幸いです。ご来場下さった皆様、ありがとうございました。
またスタッフとしてご協力いただいた講師の三枝さんならび九州産業大学生徒OBの皆様、学生ボランティアの皆様、当館ボランティアの皆様、実習生の皆様のご協力あってこそ、無事終えることができました。本当にありがとうございます。アンケートをみるとファミリーDAYに参加したのは今回が初めてという方が9割以上いらっしゃいました。ぜひ、これを機会に親子で美術館に遊びにいらしていただけると嬉しいです。
それでは、次回のファミリーDAYもお楽しみに。
(教育普及専門員 教育普及担当 上野真歩)
2019年9月19日 11:09
もうすっかり秋ですね。「夏休みこども美術館」もあとわずかで終わってしまうので、そうなる前に、8月3日に開催した「夏休みこどもワークショップ 日本画にチャレンジしよう!」のご報告をせねばと焦ってパソコンに向かっています。
ところで、皆さんは日本画を描いたことはありますでしょうか?実は、私もこの企画のリハーサルで描いてみるまで、そういえばちゃんと描いたことなかったかもしれません。余談ですが、学芸員のなかには、もちろん芸術系の大学を出て実技もばっちりできます、という人もいますが、作品見るのは仕事だし、そもそも好きだ、でも、描くのは・・・聞かないで!という人も少なくありません。私もご多分に漏れず、実技的なことはそんなに得意ではありません。そんなわけで、毎回ワークショップなどでアーティストさんたちのサポートをするのは、平静を装いながらも、何を振られるかとハラハラドキドキしているんです(笑)。
さて、話は戻って8月3日の夏休みこどもワークショップです。講師は福岡教育大学で日本画を教えておられる松久公嗣さん。そして、ありがたいことに、アシスタントとしてゼミの学生さんたちもつれてきてくださいました。さらにさらに、このワークショップのことを聞きつけた、当館の所蔵作家の大浦こころさんが、「顔料のことを勉強したいので」ということで、アシスタントを買って出てくださったのです。これで私および当日サポートに入った学芸員たちのハラハラドキドキも半減されました。
そんな具合で、大人もあまり体験したことがないわけですから、子どもたちはほぼ初めての日本画体験。でも、それだけに、いずれの子どもたちも最初から真剣なようすでした。
まずは、手本となる花の絵から好きなものを1枚選び、その絵を色紙に写していきます。手本の裏を鉛筆で塗りつぶし、色紙の上に置いて、表から花の輪郭をなぞっていくと、カーボン紙で写すように、色紙に花の絵が写されるわけです。
真剣!
ずれないように写すのが意外に難しい・・・
花の絵を写し終えたら、次は好きな色の粉=顔料をとって、そこに少し膠(にかわ)を垂らして指で練ります。膠のにおいに顔をしかめつつ、だんだん絵を描くモードになってくる子どもたち。
どの色にするか迷うなぁ・・・
練るのはこれくらいでいいのかな?
さらに、墨を擦ります。中には、「墨汁じゃないんだ・・・」とおどろきつつ、墨を擦るのは初めてとウキウキしながら擦っている子どももいました。
うまく擦れてるかな
準備は万端整いました。いよいよ色紙に墨と顔料で花の絵を描いていきます。単に色を塗るだけでなく、日本画の技法のひとつ「たらしこみ」にもチャレンジしてもらいました。この技法は桃山時代後期から江戸時代に活躍した「琳派」といわれる人たちが好んで使用した技法です。実は、手本となる絵も、松久さんがわざわざ琳派の絵から抜き出してくれたものでした。そして、なぜ琳派を選んだのか・・・は後ほどお話しますね。
一筆一筆丁寧に~!
技法は技法として・・・なかなか個性的なものも出来上がっています
作品が仕上がり、お昼休みをとった後は、自分の作品を表装することにチャレンジしました。松久さんが用意してくださった台紙に、膠を塗り付け、準備ができたら、金箔・銀箔で砂子を蒔きます。金・銀を使うとなると、なぜかみんなテンションマックスに。かっこよく台紙をキラキラにしていく参加者たち。
なんだかワクワク砂子蒔き
その後、台紙の膠が乾ききる時間を利用して、「夏休みこども美術館 美術のひみつ~昔の美術編」を鑑賞しに行きました。そうです、ここに琳派の作品が2点展示してあったのですね~。「ここにたらしこみが使われているよ」などトークを聴きながら、自分の体験を振り返ります。
これが「たらしこみ」か~!
子どもたちが展示を見ている間、スタッフたちは、台紙をドライヤーで乾かしていました。そのかいあって、しっかり乾いた台紙。その台紙に作品をはります。すると・・・なんだか立派に見えるではないですか!松久さん曰く「色紙だけだと家に持って帰っても飾らないんだよね。でも、ちゃんと表装をすると飾ろうという気になる。自分の作品を大事にしようという気になるよね。そこまで体験してほしいな、と思ったんです。」とのこと。確かに。皆さん、大事そうに自分の作品を持って帰っていました。
表装すると出来上がった感じがする
毎回のことですが、ワークショップなどすると、私もいろいろ学ぶことがあります。いつも企画を練るときは「アイデア尽きた~」「お金がない~」など苦しみますが、こういう学びがあるからやめられないんですよね~。次は何をしようか、今日も考え中です。
(主任学芸主事 教育普及担当 鬼本佳代子)
2019年8月28日 13:08
福岡市の小中学校は、すでに2学期がはじまっているようですが、当館では、まだまだ「夏休みこども美術館」の展示をやっています。
毎夏開催している、この「夏休みこども美術館」は、主にコレクションを子ども向けに紹介するという企画です。今年、福岡市美術館は40周年を迎えますが、「夏休みこども美術館」も、来年30周年!今でこそ、夏といえば、美術館で子ども向け企画は当たり前!と思われているかもしれませんが、1990年代の初め、美術館で子ども向け企画は、まったくメジャーではありませんでした。時代は変わるものですね。
さて、今年はどんな展覧会になっているかというと・・・2000年代に入って休館までは、ずっと「よく見て考えたり感じたりする」をテーマに「夏休みこども美術館」の展示を構成していたのですが、今年は、「教えてもらわないとわからないこと=ひみつ」をテーマに構成しました。展示されているのは、当館の古美術コレクションから選んだものです。まず、冒頭は、その作品の素材に注目。絹、紙、羊皮紙に描かれた絵画作品を、それぞれの原料・素材とともに展示しています。
ちなみに、和紙の原料というと、コウゾ・ミツマタ・ガンピと習ったことがある人も多いと思いますが、コウゾ(ヒメコウゾ)とミツマタも展示しています。この展示用資料は、九州大学総合研究博物館の先生に作っていただきました。ちなみに、これら2つの植物は手に入りやすいところに生えていたそうですが、ガンピは、手に入りにくく、残念ながら今回は展示できませんでした・・・。
次のコーナーでは、色に注目。顔料とその原料となる鉱物、銀箔、金箔、そして墨など、日本で昔から使われていた色材が作品と一緒に展示されています。鉱物類は、九州大学総合研究博物館からお借りしたものです。
実は、鉱物好きの筆者。本当はもっといろいろ並べたかったのですが、展示場所が足りないことに気づき、あえなく断念しました・・・。
そしてその次のコーナーでは、どうやって作品たちが美術館にやったきたのか、とってもシンプルに説明。例えば、この作品は「もらいました」
福岡市美術館の約70%は、多くの人たちに自分の持っている作品を見てもらって、活用してほしいと思う篤志家の方々からのいただきものなんです。
そして最後は、館長をはじめ、古美術専門の学芸員に「子どもたちに見てほしい作品」を推薦してもらってそのエピソードとともに展示しています。そのエピソードは・・・ぜひ、美術館に来て、ご覧ください。
展覧会場にはワークシートや、学芸員へ手紙を出すコーナーもあります。
手紙には、「a気になる作品」「b学芸員につたえたいこと」を書いてもらうのですが・・・
これまで入っていたお手紙を、せっかくなので少しご紹介します。
aえんまてんぞう b「ん、なんだ?」とおもってまえにきたら、すごいえでした
a(自在蟹置物) bかにのうらが見てみたい。つぎにわたしがきたときにかにのうらを見せてください
a土偶 bいろいろなおもしろいものやすごいものがあってたのしかったです。これからもすごいのがあったらてんじしてください。
※( )内は筆者の補足
実は、8月25日まで、ボランティアさんによる「ギャラリーツアーforキッズ」をやっていました。作品の支持体となっている素材を触ったり、屏風の中に登場する人物のセリフを考えたり・・・と展示だけでは味わえない内容でした。
展示室内にある、図書のコーナー「夏休みこどもとしょかん」では、子ども向けの美術関連図書を紹介しています。ゆっくりおくつろぎください~!
8月3日には、夏休みこどもワークショップ「日本画にチャレンジしよう!」も開催し、本格的な日本画を描いてもらいました。この報告は後日またブログにアップしたいと思います。
と、ここまで子ども向けと言っていた「夏休みこども美術館」の展示ですが、実は、大人も楽しめるような内容を意識しました。少し子どもにもどった気持ちで、あるいは、お子さんと一緒に話をしながら、大人の方にもぜひご覧いただければと思います。
(主任学芸主事 教育普及担当 鬼本佳代子)
会期:~9月29日(日)
場所:1階 古美術企画展示室