2025年2月13日 09:02
今回のブログでは、昨年の11月末から12月に行ったバリアフリーギャラリーツアーにて作品を鑑賞した時のことを少しご紹介したいと思います。
昨年12月に開催した「聴覚障がい者のための 目で聴くツアー」より
福岡市美術館では、毎日定時に開催しているギャラリーツアーや、夏休みのこども美術館、秋のファミリーDAYなど、年間を通して来館者へ向けた様々なプログラムを企画していますが、そのうちのひとつにバリアフリーギャラリーツアーがあります。これは、様々な方が集まり、利用する施設である美術館が、すべての人にとって安心して過ごせる場所となっていくことを目指して行うもので、現在は年に一度のペースで視覚、聴覚に障がいがある方、車いすを利用する方を主な対象に、3つのギャラリーツアーを開催しています。2023年度までは、基本的に8~9月のシーズンに行ってきたツアーですが、今年度は9月に新規収蔵作品、モナ・ハトゥムの《+と-》(1994/2024年、 ステンレス鋼、モーター、砂)の設置のため、展示室に工事が入った影響で、初めて初冬の時期に開催となりました。
11月末に開催した「視覚障がい者のための おしゃべりとてざわりのツアー」より
モナ氏の作品は、床に設置された直径約4mの円形の凹みの中に砂が敷き詰められており、その上に設置されたステンレスのバーが一定の速度で回転することで、砂に模様を描いては消していく、という動きが反復し続けるものです。ステンレスのバーの半分にはギザギザの凹凸がついていて、それが砂をなぞることで規則正しい櫛目状の模様ができて、平らだった表面に繊細な陰影が生まれますが、やがて凹凸のないバーの半分がやってきて通り過ぎるので、模様はかき消され、フラットな砂の面が再び作られます。作品は展示室の床に埋め込みで設置された立体作品であるということと同時に、こうして動き続けるということも作品テーマに関わる大切な要素となっています。
「おしゃべりとてざわりのツアー」では、絵画など触れることができない作品では、見える人が大きさや色、かたちや描かれた内容などの情報を言葉で表現して、見えない人はそこから浮かんだイメージや疑問を投げ返しながら作品を鑑賞していきます。また、彫刻など触れられる作品をとりあげる場合は、事前に安全確保や触れる準備をして、触覚を通じて鑑賞します。普段、視覚に頼ることに慣れている人にとっては、触る鑑賞は物としてのかたちだけではなく、温度や質感、大きさを自分の身体感覚で直接感じるなど、目で見るのとは違った作品鑑賞の仕方に気がつくきっかけとなり、また視覚以外の感覚を研ぎ澄ませている人にとっては、触れて鑑賞する面白さを存分に楽しむ機会となります。今回のモナ作品では、作品に使われている砂と同じものを容器に取り分けそれに「触れる」こともしましたが、それだけでは伝わらない、作品が動くことで生まれる変化を感じるため、かすかな砂の音やバーが動く気配が伝わってくるかを、参加者が耳を澄ませて作品に集中するという時間も、鑑賞の中に意識して取り入れてみました。
そして、「おしゃべりとてざわりのツアー」の翌日には、「目で聴くツアー」にて同じモナ作品を、聴覚障がいのある当事者の方とも鑑賞しましたが、この時は作品全体を見て情報を受取ることができるので、見えるものについてから話は始まったものの、やはり作品の動きや砂の変化について話題が展開したところで、音についても話す場面がでたことは印象的でした。
目で聴くツアーでは、当事者の方から発せられた、砂が動いて生まれるのはどんな音ですか?という質問に対して、手話通訳をされていた通訳者の方も自身の感想を伝えてくれたのですが、海辺の音のようです、と表現されていました。その言葉で、参加者の中にどのような作品イメージが膨らんだのかはわかりません。ただ、新しい作品が設置されたことで今回は、見たり触れるたりするだけではだけでなく、気配を感じる、音をきく(イメージする)ということも作品鑑賞のひとつの要素になるのでは?、ということを試してみることが出来ました。今回のツアーで、作品鑑賞の仕方にもまだまだ色々なアプローチがあり得るはずと、考えを広げる機会にもなったといえます。
バリアフリーギャラリーツアーでは、それぞれがそれぞれの感覚を使って作品を鑑賞し、時間を共有することを試みます。各ツアーではモナ作品以外にも、参加者の気になる作品があり希望が出た時には立ち止まってそれについて鑑賞するなど、通常のギャラリーツアーよりは全体の時間を長目にとって開催しています。2020年から始まったプログラムですが、これからも参加する方にとってのより良いかたちを考えながら試みて行ければと思います。
ところで、昨年末くらいまでは、今年は比較的暖冬なのかな?と思っていたのに、年が明けたあと、ここしばらくは急に寒い日が続いています。北海道や北、西日本ではとくに寒波の影響が大きい地域もあり大変ですが、福岡市美術館の周辺でも雪がちらつく日が何日もありました。冬の曇り空が続くと、温暖な気候の福岡も、やはり日本海側の地域なのだというのを実感します。冬の一番寒い時期に美術館まで出かけていくのはしんどいし面倒くさいなと、億劫に思われる方も多いかもしれません。ただ、そんな季節でも1月末からの旧正月や、特別展「トムとジェリー展」が始まったこともあり、福岡市美術館は国内外のたくさんの方にいらしていただいており、とても賑わっています。館内は年間を通して温湿度管理により一定に保たれていますので、来てしまえば快適に過ごしていただけますので安心ください!と、最後になり天気の話題など少しチカラ技で強引に挟んだのは、実は今週末、2月15日(土)にもバリアフリーギャラリーツアーの3つ目のプログラムとして、「車いす利用者のための ゆったり車いす鑑賞ツアー」を開催する予定で準備中なのです。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/154093/
(応募は2月12日にて締め切っていますが、もし参加してみたい、という方がいましたら直前となりますが上記をご覧いただきご連絡ください。)
ですので、これ以上寒波は続かないでほしいと切に願いながら現在、このブログを書いています。夏は台風に悩まされ、冬は雪をおそれつつですが、これからも福岡市美術館にアクセスしてくださる方へ向けて、作品や展示を楽しんでもらえるプログラムを行っていきたいと思います。
(教育普及係長 髙田瑠美)
2024年10月30日 16:10
みなさん、こんにちは。美術館に植えてあるイチョウの木がだんだんと黄色に染まり、ひんやりとする空気に秋の深まりを感じます。秋といえば、芸術の秋ですね。福岡市美術館では、毎年開館記念日の11月3日に合わせて「ファミリーDAY」を開催し、未就学児から中学生まで、そしてその保護者の方を対象に、家族で美術館やアートを楽しむプログラムを企画しています。今年は、11月2日(土)、3日(日・祝)の2日間の開催で、3日(日・祝)は大人の方のコレクション展の観覧料が無料となり、家族のお出かけにもピッタリです(福岡市内在住65歳以上と中学生以下はコレクション展観覧料無料)。プログラムには事前応募が必要なプログラムと予約なしで参加できるプログラムがありますが、今回は予約なしで参加できるプログラムについて紹介していきます。
【かいとうキッズ 美術館の謎をとけ! 】2日(土)・3日(日・祝) 対象:5歳くらい~
福岡市美術館の特色でもある古美術から近現代美術までの幅広いコレクションを活かして、美術館職員が頭をひねって考えたクイズに挑戦するプログラムです。「やさしいクイズ」か「むずかしいクイズ」を自分で選び、名探偵気分で作品を鑑賞しながらクイズを解いていきます。見過ごしてしまいそうなところに新しい発見がかくれています。お子さんと気づいたことをお話ししながら一緒に作品を観賞してみてくださいね。
【お面をつくって作品にへんしん!】2日(土)・3日(日・祝) 対象:3歳くらい~ 定員10人程度(入れかえ制)
福岡市美術館に展示中の作品をモチーフにしたぬり絵に色を塗ってお面を作ります。作品どおりの色を塗る必要はありません。好きな色を使って、自分だけのお面を作ります。お面の図柄は、なんと13種類!お面を作った後は、本物の作品を見に行くのも楽しみの一つです。
【ミニミニワークショップ】3日(日・祝) 対象:未就学児とその保護者 定員:8組(入れかえ制)
2階の「キッズスペース 森のたね」に大きなタネのオブジェが登場!これは、アーティストのオーギ・カナエさんがこのワークショップのために制作してくださったものです。このタネのオブジェの中には身近な素材がたくさん入っています。そのタネの中から素材を取り出して、自由に組みあわせながら「森のなかま」を作ります。いろいろな素材に触れて、手触りを楽しむこともできるワークショップです。
【つくって、あそぼう!コブウシくんとおすもさん】3日(日・祝) 対象:小学生~ 定員:6人程度(入れかえ制)
福岡市美術館の愛すべきキャラクターであるこぶうしくんのもとになった作品《コブウシ土偶》と、誰もがその大きさに圧倒され、つい相撲を取りたくなる中ハシ克シゲ作《Nippon Cha Cha Cha》の動く紙製人形を作ります。動かすための紐を引っ張ると、思いもよらない動きに大人も子どもも笑みがこぼれます。そして、実はチラシには載ってないニューバージョンも登場します…!お楽しみに。
普段なかなか一緒に作品を見たり、作品をつくったりする機会が少ないご家族や、美術館がなんとなく遠い存在と感じるご家族にとっても気軽に参加できるプログラムとなっています。芸術の秋を家族で楽しめる「ファミリーDAY」へのご参加お待ちしています。
各プログラムの詳細は、ファミリーDAY 2024のチラシを下記よりダウンロードしてご覧ください。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/146649/
(教育普及専門員 冨坂綾子)
2024年9月11日 09:09
福岡では9月に入ってもまだまだ残暑が厳しく、日中は気温が30度を超える日が続いています。それでも日が落ちる夕方頃になると風も涼しくなって、館外に出ると秋の虫の音が聴こえることも。そうして季節が移ろっていくのを実感すると共に、夏休み期間にこどもたちに向けて開催していた「夏休みこども美術館」の展示も9月1日で終了となりました。
この「夏休みこども美術館」は少しずつ形を変えながらも、1990年から続いている当館のなかでは老舗企画です。近年は一年ごとに古美術と近現代のコレクション展示室で場所をチェンジして行う“こどもギャラリー”(コレクション展)を中心に、関連行事としてワークショップや絵本を集めた“夏休みこどもとしょかん”などを開催しています。今年もこどもギャラリーの展示として、「道、その先には何がある?」を開催し、期間中には事前に参加を募って、来館してくれたこどもたちと一緒にワークショップとギャラリーツアーを行いました。このブログでは、その時の様子を少しご紹介したいと思います。
ワークショップ:「未来にむかって歩くなら?わたしの“くつ”をつくってみよう」
ワークショップを企画するにあたっては、展示テーマや作品とのつながりを大事にしながら内容を考えるのですが、アイデア出しの紆余曲折を経て、今年は「靴」を取り上げる事にしました。展示室の作品を鑑賞し、作品についてイメージや想像を膨らませた後に、館内のアートスタジオで紙や布、その他様々な素材を使って、各自が自分なりの創作に挑戦してみよう、という2時間ほどの企画です。ただし、制作する靴は、こどもたちがいま、普段に履きたい靴、ではなくて未来の世界を想像して、そこで履くならどんな靴を履いてみたいかをイメージして作るものです。7月と8月に1回ずつ、小中学生とその保護者の方にも制作に参加してもらい実施しました。
ギャラリーでは、絵に描かれた道、作品と出会ったこどもたちが、自分に引きつけて見るきっかけになる展開を、ということで道を歩く時に必要な物である靴の作品を選んで展示したので、まずはそれらをこどもたちとしっかりと観察しました。作品について、対話をしながら見ていると、何か気がついたり、興味が広がるきっかけがそれぞれの中で生まれます。展示作品には、絵画だけではなく実際の靴を使用した立体作品もあり、見ているうちに、段々自分も手を動かしてみたくなって、うずうずしてきている子はその雰囲気が伝わってきて、そうなるともう次は制作本番です。
制作に入ると、そこからは何をどう作りましょう、というルールはなく各自が考えて何でも自由にトライしてもらいます。素材を選んだり、小さな子は初めて使うカッターやグルーガンなど道具の使い方を聞いてやってみたりと取り組むうちに、いつしかスタジオは黙々と集中する空気も流れて、もう少し作りたい!という声もあるなか、あっという間に時間となりました。出来上がったものは「話す靴」や「履くと瞬間移動する靴」などそれぞれのアイデアがつまっていて、こどもも大人もいろいろな想像を巡らせ作ったものを、最後にお互いで紹介しあって終了となりました。
こどもを対象とした「ギャラリーツアー for キッズ!」
お盆を過ぎた会期の後半には一週間ほど、こどもたちと当館のガイドボランティアで展示を鑑賞する「ギャラリーツアーforキッズ!」を行いました。これは、ガイドのボランティアさんたちが開館日の毎日定時に行っている一般の方向けのギャラリーツアーを、こどもたち対象に開催するものです。ただ、少し興味を引き出す工夫をしたり、鑑賞者がこどもであるのに合わせて準備をして実施します。
対話をしながら作品鑑賞するのに、おとなでもはじめは戸惑う方も少なくないのですが、参加するこどもたちは学校で団体として来る時と違い、お互い初対面同士。緊張してしまうと言葉を発するのが難しくなってしまうこともあるので、初めて会ってすぐの大人や、知らない子と一緒にまわる中でも、リラックスして展示室で過ごし作品に向き合ってもらえるよう、担当するボランティアさんたちは事前に予行練習や打合せをしてこどもたちを迎えました。
ギャラリーツアーは同じ作品、同じガイドの問いかけであっても参加する人が変わるとどんな言葉が生まれ、どんな話が展開するかはその都度変わります。こどもたちも、回によって表情や動きなど反応は違いましたが、担当したボランティアさんたちは一緒にまわったこどもたちの様子を細かく観察して、最後の振り返りでは「実は自分も緊張もしたけど、思いがけないこどもたちの言葉を聞いたり、楽しそうな表情をした一瞬を見ると、こちらも充実感がありました」との感想を寄せてくれました。
今年の夏休みこども美術館は6月13日から2か月半ほどの開催期間でしたが、その間に展示室を訪れたこどもたちは、昨年に比べて大幅増となりました。もちろん、来館したこどもたち全員が夏休みこども美術館のために来た、ということではないでしょうが、福岡市美術館に訪れる方が増え、館全体に活気が戻ってきているのかなと思います。
最後に、こどもギャラリーの展示では今年の「道」というテーマから生まれる展開や広がりを、実際の収蔵作品にどう結びつけるかということ、そしてこどもたちにどんなことを伝えたいかということを考えて、展示室を次の3つの章に分けて構成しました。
「ちかくの道、とおくの道」(様々な道が登場する作品を集めた章。)
「いっぽ、にほ、さんぽ 歩いてみる」(道を歩くということから連想し、靴をテーマにした作品を紹介する章。)
「道、その先には何がある?」(道そのものをクローズアップし、象徴的に扱った作品で構成した章。)
会場に並んだ作品からそうした構成やテーマを全部くみ取って見てほしい、ということではないので、見たこどもたちの中にどんな印象や思い出が残るかは(あるいは、残らないかも?)わかりません。ただ、展示を準備するなかで作品を見ていて思ったのは、いずれの作品でもそこに描かれた道はどこからつながって、どこに向かって伸びるのか、「その先」は描かれていないということです。この夏の展示に来たこどもたちが、それぞれの先へ向かうなかで、いつかまた福岡市美術館で見た作品と出会うことがあったら、その時はどんな風に作品を見て何を思うのか、そんなことを想像する余韻も生まれた展覧会となりました。
(教育普及係長 髙田瑠美)