2021年3月28日 10:03
あったかい陽ざし、やわらかい風。
福岡で桜が満開を迎えてから、お花見日和が続いていますね。外に出て、まぶしい陽の光に目を細めつつあたりを見回せば、お出かけを楽しまれている親子連れやお友達同士の笑顔に、気持ちがほぐれていきます。
そうこうするうちにソメイヨシノは終わっちゃうかな?とご心配かもしれませんが、そんな場合は福岡市美術館のコレクションでお天気をきにせず、お花見はいかがでしょう。
さあ、まずは1階の古美術のコレクション展示室から。
桜といえば、野々村仁清の、重要文化財《色絵吉野山図茶壷》。当館が誇る日本の宝です。
桜の名所である奈良の吉野山の桜が壺の表を彩っています。
意外な見所は裏側。表側はまだ五分咲きていどですが、裏に回ると満開です。
ぜひ、壺の周りをぐるりと一周してみてください。
では、2階のコレクション展示室に参りましょう。髙島野十郎《寧楽の春》です。
久留米市美術館でも展覧会が開催されている髙島野十郎の作品。まるで五重塔が桜の衣装をまとったかのよう。うっすら、もやが掛かったような春の大気がよく表されています。
そして、桜といえば、これ。インカ・ショニバレCBEの《桜を放つ女性》。
力強く、咲き誇る桜。満開です。
さらに、3月30日(火)~5月9日(日)まで、冨田溪仙展で《御室の桜》が展示されます。
冨田溪仙《御室の桜》(部分) 1933年
桜をモチーフにした当館の名品が、一時期にこれだけそろうことはなかなかありません。特に《御室の桜》は大作で、この時空にはまってしまうとなかなか出てこれないほど。ぜひ、別世界のお花見を。
(運営部長 岩永悦子)
追伸
キッズスペース「森のたね」にも桜が咲いています!スペース自体はコロナの影響でまだ解放できていないのですが、授乳室はお使いいただけます。はやくキッズスペースが使えるようになりますように!
2020年12月24日 18:12
10月17日から12月13日までの、開館50日間。今考えれば、この会期のまま開催することができたというのは、当たり前のようで、当たり前ではありませんでした。これまで、その当たり前に気づかずに、展覧会を開催してきたことを振り返させられた今年ではありました。たくさんの皆様のご協力なくして開催できず、また、たくさんの皆様のご来場なくして展覧会はありえませんでした。心から御礼申し上げます。
ふりかえれば、いきなり、「はい明日から休館!」となって、ぐらぐら揺さぶられた3月、4月。とつぜん、「美術館から開館します」というコロナ相のコメントの報道に驚愕したGW。もしも、休館になったとしても、赤字が出ないように予算書を真っ赤に書き直した、初夏。そういえば、まだ図録原稿書いてなかった…と手を付け始めた、夏。はじめてのズームで汗をかいた、展示中。そして、オープン。
今振りかえっても、クラクラします。
それでも、なにより嬉しかったのは、多くのお客様によかったよ、と言っていただけたこと。そして、「藤田嗣治という人に触れた感じがする」と言ってくださる方が多かったことです。ありがたいお言葉でした。野見山暁治先生をはじめとし、藤田ゆかりの方々-盟友・中村研一のご遺族、研究者の方々にご来場いただけたのも幸いでした。特に、中村研一・琢二 生家美術館の中村嘉彦館長には、会期の途中から貴重な御所蔵品の出品をいただき、改めて感謝申し上げます。
さてさて、今回の展覧会では、展覧会づくりをする同業の方々から、コロナ禍のなか国際展を開催したことへのエールと、「ブログ読んだよ」というお声をいただきました。ZOOM立会レポが新鮮だったとのこと。撤去時もZOOMしたのかって?…はい。しました。というわけで、顛末を。
今回は全点の梱包作業を中継しました。展示時は、こちらの13時がフランスの6時だったのですが、なんと今は冬時間で、同じ時間だとフランスは5時!?それは、あんまりにもあんまりだろうと、12月15日、16日の福岡14時、フランス6時からのスタートとなりました。
前回通り、ZOOMの前にコンディションチェックをすませました。空輸時の木箱は3つ。それぞれの木箱は3~5個程度の内箱にわかれており、ZOOMで中継しながら、出荷時と全く同じ畳み方、収納順になるように、箱におさめます。TVの料理番組ではありませんが、準備万端、あとは材料を鍋に入れるだけ、状態にしておかなければなりません。
開梱時に逐一写真を撮っておいたので、コンディションチェック後に、写真を頼りに元通りの畳み方を再現(着物の畳み方が日本と違っていて一苦労)。内箱ごとに作品をまとめて仮置きし、翌日のパッキングに備えました。
開梱時の資料写真。撮っててよかった。
12月15日14時すぎに、メゾン=アトリエ・フジタのアン・ル=ディベルデル館長ほかの招待者が揃ってZOOMでの作業中継開始。今回も、国際交流担当の徳永さんが、タブレットを取り回し、流れをリードしてくれました。昨日の準備のおかげでスムーズに、パッキングを進めることができました。
初日は、黙々と作業しているうちに、あっという間に時間がたち、アン館長からそろそろオフィスアワーが始まるから今日はこれぐらいにしてもいいかしらとお声がかかり、終了。本当は、その日(15日)に再開館するはずだったメゾン=アトリエ・フジタ。結局開館できないままだったようですが、きっとバタバタされていたのでしょう。
翌日のパッキングは残りわずかで、立体作品中心となりました。藤田がペイントした裁縫箱、着物を縫ってあげた日本人形、台座を作り紅型のケープを被せたマリア像の3点です。撤去時はもちろん作業に集中しているのですが、前々日のコンディションチェック時に、ちょっと感傷的になった瞬間がありました。
日本人形に取り掛かろうとして、向かい合った時のことです。なぜか、とてもキラキラして見えたのです。
目にお星さまが!
「ああ、この子にとっては、初めての里帰りだったんだ。」
「なんか嬉しそう。目がキラキラしてる。」
「立派な勲章つけちゃって。ニコニコして。」
ふと、藤田自身が、レジオンドヌール勲章をつけて帰ってきたのかな、と思ったのでした。
一瞬その記憶がかすめたものの、作業はどんどんすすみ、最後にマリア像を箱に収め、外箱のボルトを電気ドリルでぎゅっと締めて終了。
さて、フランスから来た藤田の染織品、もう帰路についたのかといいますと、実はまだ。
その、ごく一部ですが、秋田県立美美術館の特別展「藤田嗣治 布と対話-筒描・藍染を慈しむ―」(2021年1月16日(土)から3月7日(日)まで)で展示されます。お近くの方は、ぜひお訪ねください。詳細は、秋田県立美術館にお問い合わせください。
展覧会・イベント 秋田県立美術館 – (akita-museum-of-art.jp)
また、コロナで移動ができなくて、見逃しちゃったわ、という方は、「アートスケープ」美術館・アート情報 artscapeのサイト内の「360°ビュー」会場の様子ととともに、経緯やみどころも掲載していただいています。ぜひ、ご覧ください。描かれた染織品や衣装から画業をひも解く──藤田嗣治と彼が愛した布たち:360°ビュー|美術館・アート情報 artscape
図録は、福岡市美術館オンラインショップで販売開始!どうかご利用ください。
懐かしのメゾン=アトリエ・フジタ。次に行けるのはいつだろう…。
さて、クリスマスですね!
特別展示室では「ヒグチユウコ展 CIRCUS」が始まりました(~2月7日まで。オンラインによる事前予約が必要です。)
なんだかんだで、ブログも今年はもう店じまい。美術館は12月27日まで開館しております。年明けは、1月5日(火)から。当館の企画展「ソシエテ・イルフは前進する 福岡の前衛写真と絵画」もこの日から始まります!(~3月21日まで)。
「来年は、鼓舞丑年。」
どうか、みなさま、よいクリスマスとお正月を過ごされますように。
来年もどうかよろしくお願いいたします。
(運営部長・学芸課長 岩永悦子)
2020年11月26日 15:11
「藤田嗣治と彼が愛した布たち」展が始まって、かれこれ…あら、もう会期があと3週間切れてる!?土日はあと3回しかありません。そろそろ、焦ってご予定を立てていただいて結構かと思います 笑。皆さまの御来館をお待ちしております。
展覧会を開催すると、マスコミ各社さんから取材をしていただくことがあります。取材時間も制作時間も限られているなかで、何かをつかもうとされるプロフェッショナルたちとの真剣勝負。皆さんの、ストックの広さ・深さ、そして瞬発力に、思ってもいなかったことを引き出してもらうことがあります。
今回、X新聞のZ記者の取材を受けました。Z記者は、質問するだけでなく、ご自分が感じたことも、正直に話してくれる方です。戦争画について、「今の目で批判するのは簡単。でも自分がその時生きていたら、きっと誰もがしたように行動したと思います。」と言われ、「わたしもそう思います」と返しました。「朝ドラ『エール』の主人公は、軍歌を作っていながら日本でサバイバルできたのに、どうして藤田はできなかったんでしょう。」という問いに「うーん。日本でのサバイバルにこだわらなくても、藤田には脱出先があった。これが大きいかもです。」と答えました。そう、藤田には日本以外のどこかに行く、という選択肢があった。非常に困難な道でしたが、それをやってのけた。だからこそ、「日本ではサバイバルできなかった」という事実が残ってしまったのでもありますが…。
戦争画のコーナーを過ぎ、藤田の手仕事コーナーにさしかかったとき、「藤田はできあいのものを、そのまま受け入れるのが嫌いでした。若い頃から、オリジナルなものを身に着けることに価値を見出して、手づくりをしていました。既製服を着るときも、ポケットをつけ足すなど、なにかカスタマイズして、自分のものにしないと満足しなかったみたいです。」ということを話しました。青年期から晩年まで、楽天的でめげない。難局を突破する。あらゆることに全力投球できる。時間を惜しんで制作に没頭する。衣食住すべてにわたって、自分の生活の隅々まで自分で作り上げる。そんな藤田像を話した時、Z記者が引き出してくれた言葉があります。
「藤田には生命力がある!」
「生命力」というキーワードは、藤田の作品や人となりに正面から向き合い、ストレートにご自分のことも語ってくださったZ記者との対話でなければ、きっと出て来なかったでしょう。藤田には、どんな環境下でも前に向かって進む力がありました。
藤田の手から生まれてくるすべて―絵画にも、針仕事にも、手紙にも―は、生命力にあふれています。この展覧会で、ぜひ、その力に触れに来てください。
(学芸課長 岩永悦子)