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福岡市美術館ブログ

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総館長ブログ

無言の会話

どーも。総館長の中山です。新年あけましておめでとうございます。

もう遠い昔のことです。わたしは神奈川県に住んでいて、バスで大学に通っていました。住み始めたころは、見なれない風景がめずらしくて、行き当たりばったりで通学の路線とは違うバスに乗り、知らない土地をのんびりと終点まで行って帰って来る、というような暇つぶしを何度となくしていました。ぜんぜん勉強してなかったんですね。

夏のはじめ、郊外のバス停から五、六人のご老人が乗って来られ、一斉に手話で会話をはじめられました。ときどき笑い声は聞こえますが、手話ですから静かな会話です。ですが、すごく早口でしゃべっていることや、こまかなニュアンスだってきちんと通じていることも見ていてわかりました。つまり、ワイワイやっているんです。おしゃべり好きのご老人たちだったのでしょうね。豊かな表情や手の動きに、言いたいことを伝えよう、表現しようとする意欲があふれていて、すごいなあと感心しました。これからみんなで久しぶりに繁華街にくりだして、それこそワイワイやりながら楽しい買い物でもするのだろうと勝手に想像してしまったことも覚えています。

美術館も、楽しいか楽しくないかは別にして、そこかしこで無言の会話がされている場所です。お客さま同士の会話ではありません。作品と観覧者のあいだにある無言の会話です。観覧者はそもそも美術好きで美術館に来ているのだから、「楽しいか楽しくないかは別にして」ではなくて、当然楽しい会話でしょと突っ込まれるかもしれません。でも、例えば年末までコレクション展示室(近現代美術室B)で展示していた戦後日本を代表する写真家・奈良原一高の作品などを見ていると、それこそ言葉では言いあらわせない、なんとも言いようのないものがモノクロ風景の向こう側から伝わってきて、単純に「楽しい」なんて言えなくなります。現在もコレクション展示室(古美術企画展示室)で開催中の「仙厓展」なら、これはたしかに楽しい会話になるかもしれません。それでも、やはり単純に楽しいだけではないと思うのです。

作品は、なにかを伝えるために生み出されたものです。そこに表されているものは、優れた作品であればあるほど、わたしたちのごく平凡で平均的な感覚から逸脱している。もともと言葉にできないから美術になるのだし。だから常識的な言葉に翻訳しにくくなる。そういう相手との無言の会話ですから、作品が「わからない」、美術館は苦手、というのもよくわかるのです。ただ、そんなわからない作品を作ったのもわたしたちとおなじ人間です。自然物には人間の作者はいませんが、美術作品の向こう側には必ずいる。そして作者は常に、作品からなにかを感じてほしいと願っている。もしも目の前の画面から、そういう「感じてほしいオーラ」が伝わってきたら、言葉にはならなくても、ほんの一瞬でもいいので、無言の会話を試してみてください。楽しくはないかもしれませんが、おもしろい可能性はけっこうあるんです。たとえば、驚かされ、ゾッとさせられ、胸が苦しくなり、それなのにきれいだなと感心させられ、なんだかほっとする、とか。これ、奈良原一高の「無国籍地」や「人間の土地」と無言の会話をしたわたしの素朴な感想です。

観覧者のみなさんとつながりたいのは作品だけではありません。いつも美術館の奥の方で、得体のしれない仕事をしている?みたいな学芸員も、つながりたいと思っています。展覧会の名前やごあいさつパネル、作品の並べかた、作品解説など、美術館の空間をカンバスとして、作品たちを素材として(えらく不遜ですが)、作品の作者とおなじように一生懸命なにかを伝えようとしている、または伝えようとあがいているのが学芸員です。つまりそこにも強い弱いはあるけれど、「感じてほしいオーラ」が漂っているはずです。作品の前から一歩さがって俯瞰してみて、そういう「感じてほしいオーラ」を運悪く感じてしまったら、今度は学芸員と無言の会話ができるかもしれません。そんなのしたくない? まあ、そう言わずに。

(総館長 中山喜一朗)

奈良原一高「無国籍地」/「人間の土地」 展示風景(2022年11月1日~12月27日)

奈良原一高「無国籍地」/「人間の土地」 展示風景(2022年11月1日~12月27日)

仙厓義梵《子孫繁盛図》
ちゃんちゃんの子がちゃんちゃんとなるからに ちゃんと其子もちゃんちゃちゃんちゃんちゃちゃん子孫繁昌

 

館長ブログ

ことしもお世話になりました。

KYNEさんの壁画《Untitled》は2022年12月27日をもって、展示を終えます。展示最終日の今日は、クリスマス頃とは打ってかわって、暖かい陽が差し込んでいます。

KYNEさんと「なにか一緒にやりましょう」と話し合ったのは2019年の秋でした。「年が明け、3月ごろにまた打ち合わせましょう」と約束した時には、2020年の3月に人と会うことがこんなに難しくなっているなんて、想像もつきませんでした。実際に再会して、壁画制作が具体化しつつある頃は、まだまだコロナが未知の病すぎて、恐怖心が先に立っていたと思います。2020年9月に完成した壁画。描かれた女性は、ずっと美術館の中から、大濠公園の景色を見つめつづけてきました。「不要不急の外出はお控えください」という言葉そのままに。

2022年の今、コロナへの対応の仕方は心理的にも物理的にもかなり変わってきたと思います。壁画については、最初は1年ぐらいの期間限定でとのことでしたが、このままでは海外のファンの方に見ていただけないので、せめて3年ぐらい、と延長をお願いしていました。まさに今、海外からの観光客の受け入れが始まっており、今日も美術館は韓国など海外からのお客様が沢山来てくださっています。

いろいろあるけれど、もう美術館の外に出てもいいかな。

と、彼女は思ったかどうかはさておいて、彼女と会えるのも今日まで。ずっとここにいてくれてありがとう。

(館長 岩永悦子)

 

館長ブログ

給料いいですか?

先日、福岡市西区にある福岡市立姪浜中学校に行ってきました。「社会人講話」という中学生のキャリア教育のための講師!ということで、お声がけいただきました。1日2コマ、自分の職業について講話をするとのこと。

はじめてうかがう姪浜中は、29学級を擁する市内屈指のマンモス校。広々としたモダンな校舎は、自分の中学時代のそれとは似ても似つかないものでした。控室に座っていると、続々と講師の方々が来られます。キッチリした背広の人、楽器を持った人、外国の人などなど…。あとでIT企業の方や保険会社の方など、様々な職種の人が集まっていたと知りました。

控室には、生徒がお迎えに来てくれるそうで、待つことしばし。女子生徒が二人「岩永先生」を、迎えに来てくれました。最初のセッションの始まりです。

教室には、20人程度の中学生たち。「福岡市美術館に来たことある人いますかー?」3人の手が上がったので、そこから美術館の活動を紹介し始めました。ここで役に立ったのが、中学校の美術の副読本。ダリやミロ、仙厓などの福岡市美の所蔵品も掲載されていたので、図版を見ながら解説し、研究・展示・収集・保存のサイクルなどについて話しました。

今回、ぜひ触れたかったことのひとつが、学芸員になったきっかけでした。

「みんな、中学校の間は音楽も美術も教わるけど、高校になったら選択制になるんだよ。音楽と美術と書道だったら、どれを選ぶ?」と聞くと、ほとんどの子が美術に手をあげてくれてびっくり。実は、先生が美術に興味のある生徒を選んでいてくれたとのこと。道理でみなさん、一生懸命聞いてくれているわけです。それにしても、「ここに同士がいる!」と思って感激しました。

「高校の時、わたしも美術を選択しました。夏休みに展覧会の感想文を書くという宿題が出て、展覧会を見に行ったのです。でもね、見に行った絵が、怖くて。みんな岸田劉生という画家が描いた《麗子像》って知ってる?」「?」ここで再び役に立ったのが、中学校の美術の副読本でした。

「えーと、〇ページの〇段目に載っている、この絵。展覧会で見て、気持ち悪いというか、怖いと思ったんだけど、たくさん見ているうちに、見方が変わってきて、いいなと思えるようになったんです。美術を通して、<よくよく知れば嫌いなものも好きになれる>という経験をしました。感想文を書くことも面白かったので、大学受験の前に、美術に関われる仕事として学芸員という職業があることを知って、その方向に進める大学を受験しようと思いました。」

他に「資格はいるのか(→資格というより、大学院に行く覚悟がいります)」「美術品の値段はどうやって決まるのか?(→欲しい人がどれだけいるかで決まります)」と、あらかじめいただいた質問にも答えつつ、最初のセッションでは、おおむね美術館の仕事と、どうやって学芸員になるかという話ができました。

休憩をはさんで、別の生徒たちと次のセッションです。一回目でだいたい要領をつかんでしまって、ついつい話すべきことをサクサク話してしまい、ちょっと時間があまり気味に。そこで「なんでもどうぞ」と質問を取ったところ、意外にも「好きなアーティストはいますか?」これが、何と言いますか、「好きな人は誰ですか」と聞かれたぐらいの衝撃度で、急にあわあわドキドキ。ここからは「講師」というより、素の自分が出てしまいました。

中学生からの質問だったので、学生時代から好きだった「初恋の人=俵屋宗達」を答えようとしたのですが、「もしかして、誰も知らないかも?」。そこで、三たび、副読本に助けてもらうことに。「わたしが大好きな絵は△ページにあります!」みんなが一斉に副読本を開きます。が、そのページには10点を超える名画が。「ひ、ヒントは、<飛んでいる>人のいる絵です!」

そう、そのページには宗達の《風神雷神図》とサンドロ・ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》がありました(どちらにも風の神様がいますね)。「では、どっちでしょうか!《風神雷神図》と思う人!」男子2名の手があがります。「《ヴィーナスの誕生》と思う人!」残りほぼすべての手が、あがります。「…正解は、《風神雷神図》でした!」「っしゃあ!」(男子2名)。ごめんよ、当たってもなんにもならないクイズで。でも、きっと彼らも《風神雷神図》が好きだったのだと思います。仲間がいるって、嬉しいよね。

その後、生徒に好きな作品を逆質問すると、ある女子生徒が、副読本のページを繰って「これかな…」。なんと、尾形光琳の《紅白梅図屏風》。「わあ!この絵を描いた尾形光琳は、さっきの《風神雷神図》を描いた俵屋宗達を、すっごい尊敬していてね!…」と、またまた興奮して、琳派(宗達と宗達に影響を受けた画家たちを指します)愛が炸裂してしまいました。

さて、もうこれで最後の一問、という時に、正面に座っている男子をあてました。

「最後に、何か質問ありますか?」
「えっ?僕ですか」
「はい、どうぞ!」
「…給料いいですか?」

「えっ!と。その、公務員の給料ですけどね~、はい。」としどろもどろ。そうでした。キャリア形成のための講話でしたね。講話終了後の生徒代表の「先生のお話を元に、将来を考えてみたいと思います。」という挨拶にも、みんなで爆笑してしまいました。

ああー。これでよかったんだろうか。とにかく、ヲタ気質の方がいい、アイドルの追っかけが出来る人も向く、とは伝えた。好きなものには、大人になってもアツくなれることは見せられたかもしれない。嫌いなものでも、一生懸命知ろうとすれば良さが見える、自分のとらわれも越えられる、とは語った。それにしても、美術に関心を寄せてくれる生徒があんなにいるんだ…。この中から学芸員が誕生するといいな。給料はともかく。と思いつつ、バスに揺られて帰路につきました。本当に楽しい時間でした。姪中の皆さん、ありがとうございました。

(館長 岩永悦子)

追伸
今日、社会人講話を受講されたみなさんから、お礼状をいただきました。作品展示の考え方など、たくさんのことを受け取ってくれたようで、とても嬉しかったです。学芸員になりたいという人も。ぜひ!お待ちしております。

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