2021年12月2日 09:12

前回ご紹介した美術品と箱の話①で、輸送時に梱包する箱についてお話をしました。箱で輸送時に気を付けるべきことは主に移動時の温湿度変動と振動がメインとなります。そのため、輸送用の箱は移動に特化した作りとなっています。
では収蔵時に使用する箱はどうでしょうか?
収蔵庫で保管する際は移動というよりも、適切な保存環境で安全に設置されていることが重要となります。
美術作品が損傷しないように気をつける、ということはなんとなく分かっていただけるかと思うのですが、なぜそもそも美術作品は損傷するのでしょうか?
実は美術作品は下記の環境要因によって損傷が起こると言われています。
①温湿度
②光
③空気
④生物
⑤振動
⑥火災・地震
⑦盗難・人的被害
(参照:京都造形芸術大学(編)『文化財のための保存科学入門』2002)
最近は水害も多いので⑥に水害も加えた方が良いかな?と思います…が、それはともかく箱に話を戻しましょう。
輸送用に使われている段ボールは一般的に再生紙を使っておりpH値は酸性となります。そのため、そのまま輸送用の箱で保管すると内部に酸性ガスが充満し、美術作品にも悪影響を与えてしまいます。先ほど紹介した③空気というのがこれに該当するわけですね。
そこで開発されたのが下記の箱です。

これは中性紙保存箱と呼ばれる中性紙を用いて作製された保存専用の箱になります。つまり、この中に保管された美術作品は正常な空気環境下に置かれることになります。もう一つ重要なのは中に何が入っているかラベルや資料情報が書かれた紙も一緒に同梱して整理することです、これが紛失予防にもつながります。

この中性紙保存箱は上の図のように組み立てるだけの簡単なタイプもありますが、そのサイズに入らない美術作品も福岡市美術館は多く所蔵しています。そのため、サイズが無い場合はせっせと気合(!)で作る、という選択をします。適度な強度があるため、一般的な段ボールと同様に工作が可能なんですね。
最近作った箱がこちらです。

これは額装されていないむき出しのキャンバスを保管するために考えた方法です。キャンバスを裏面で固定しているもので、輸送箱にも同様の形状がありトランジットフレームとかトラベルフレームと呼ばれています。この形状をそのままに素材を変えて応用したものがこちらです。裏面の金具が出てるところはちょっとだけ穴を空けて壁や柱に固定できるようにしました。これで安全に棚の中にも入れられますし、移動時に壁や柱にちょっとだけ仮置きする際にも固定が可能となります。
手作り感が溢れる感じはご愛敬、このように地道に手間暇かけるとその分結果が返ってくるなぁ、と実感する時があります。
所蔵品は今もしっかりと収蔵庫に保管されており、皆さんに展示でお披露目される日を待ち続けています。
(学芸員 作品保存修復担当 渡抜由季)
2021年11月25日 13:11
先週の16日(火)から1階の企画展示室において、コレクション展「これであなたも仙厓通」が始まりました。仙厓義梵(1750~1837)は、江戸時代に活躍した禅僧で、日本で最初の禅寺である博多・聖福寺の住職を務めました。住職を隠退した後も、博多で暮らし続け、親しみやすい書画を通して禅の教えを分かりやすく広めたことから、「博多の仙厓さん」と呼ばれ、人びとから慕われました。
本展では、そんな仙厓さんの作品をさらに深く味わうためのポイントを紹介しています。
●ポイント① いつ描いたのか?
仙厓さんが絵を描き始めたのは、博多にやってきた40歳前後からと考えられます。亡くなるのが88歳ですから、50年近い画歴があることになります。試みに初期の作風と晩年の作風を比べてみることにします。

《香厳撃竹図》仙厓さんが48歳の時の作品

《猫に紙袋図》70代後半から80代にかけての作品
いかがでしょうか。同じ人の作品とは思えないほど、画風が全く異なることがお分かりいただけると思います。展示では、仙厓さんの作品を初期から晩年にかけて紹介することで、画風の変遷をたどるとともに、どのような思いで描いたのかについても思いを巡らしています。
●ポイント② 誰の/何のために描いたのか?
仙厓さんの作品を鑑賞するもう1つのポイントが、「誰の/何のために描いたのか?」です。というのも、仙厓さんは作画にあたって、「誰に何を伝えたいのか」を常に考えていたからです。そのことがよく分かる2つの作品を比べてみましょう。

《あくび布袋図》画賛(コメント)が漢文で書かれていて、読み解くには知識が必要

《指月布袋図》画賛が仮名交じりで書かれているので、読みやすい。
どちらも親しみやすい姿の布袋を描いた作品ですが、画賛が全く違います。一方は漢文なので知識人へ向けて、もう一方は仮名交じり文なので禅宗の知識がない人に向けて描かれたと考えられます。
このように仙厓さんの作品は、誰のために、あるいはどういうシチュエーションで描かれたのかが想像できる場合が少なくありません。鑑賞の際にこのポイントを意識してみると、作品をより深く味わうことができるでしょう。
●おわりに
仙厓さんの作品を考える上で、「いつ描いたのか」「誰の/何のために描いたのか」という視点が有効であることがお分かりいただけたと思います。実は、この2つの視点は私たちが作品研究において試みているアプローチとして代表的なものでもあります。
それでは、最後にこちらの作品をご覧ください。

《虎図》
この作品は、仙厓さんによるコメント(賛)がないために解釈がとても難しいです。最近、当館の中山喜一朗総館長によって、「いつ」「誰の/何のために」という視点から作品解釈を試みる論文が発表されました(「『虎図』の正体」『福岡市美術館研究紀要』7号、2019年 )
展の会期中には中山総館長によるつきなみ講座、「仙厓さんのすべて(2)」も実施します(2021年12月18日(土)、午後3時~午後4時、会場は当館ミュージアムホール)。《虎図》も取り上げる予定ですので、是非足をお運びください。
2021年11月18日 13:11
11/16より、近現代美術室Aの一角を使い、「特集展示:菊畑茂久馬」を開催しています。これは年間スケジュールにはない、臨時の展覧会でして、「近代日本の美術:明治から昭和初期まで②」の半分を展示替えする形で行っています。
なぜ急遽特集展示をすることになったと言えば、NHK「日曜美術館」で、菊畑茂久馬の活動と作品が特集されることに決まり、当館としても、少しでも画家の活動を全国の皆さんに理解していただければ、と考え番組制作にご協力することにしたからです。
NHKのディレクターさんが特に撮影を所望されたのが、《天河 十四》でしたが、こちら、200号のカンバスを3枚つないだ、縦294㎝、横582㎝の大型絵画です。映像映えさせるには、展示室で撮影して戴くのが一番。そのほかに《ルーレット No.1》の撮影も必要でした。そこで、初期の作品である《葬送曲No.2》も加え、初期から後年までの主要作3点を展示し、菊畑の生涯を駆け足でたどる内容としました。「日曜美術館」の司会である作家の小野正嗣さん、柴田祐規子アナウンサーがいらっしゃり、この展示室内で、作品を見ながら、お二人からの質問に私が答える形で、収録を進めました。
本来ならば、撮影が済めば作品は片づけて元の展示に戻すべきところですが、番組をご覧になった方が当館にいらっしゃった時に、テレビで見た作品がないとがっかりされるかも、と思いまして、年末の12/26までこの特集展示を続行します。
私自身、これまで展覧会の紹介などで、テレビに出演した経験は何度かありましたが、全国放送の長尺番組に出演するのは初めての経験で、緊張の連続ではありましたが、事前打ち合わせもしっかり行え、また司会の小野さん、柴田さんの当意即妙のご質問やご感想が実に適切で、いい内容に仕上がったのではないかと思います。
菊畑の活動を紹介するドキュメンタリー番組は、NHK福岡放送局やRKB毎日放送でしばしば制作されてきましたが、いずれもローカル枠での放送でした。今回は全国で放映されます。福岡の文化人や戦後美術の研究者の間ではよく知られていた方ですが、一般的な知名度としては今一つのところがありますので、この特集番組をきっかけに、菊畑茂久馬への理解が一層広まることを期待したいと思います。

撮影中の一コマ。
【放送データ】日曜美術館「孤独と反骨の画家 菊畑茂久馬」
NHK(Eテレ) 11月28日(日)午前9時~9時45分
*再放送:12月5日(日)午後8時~8時45分
(学芸係長 山口洋三)