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夏休みこども美術館で実現したいくつかの「初めて」 

6月30日に開幕したコレクション展「宇宙にいきたい」。おかげさまで多くの方に足を運んでいただいております(展覧会については担当した姜が7月8日のブログでも紹介しています)。毎年開催しているこの「夏休みこども美術館」。なんと初開催は1990年。つまり36年前から続くとても歴史の長いコレクション展です。

普段、当館では、コレクション展(主に所蔵品の展示。一部の展示室を除き2~3か月に1回展示替えをします)は、古美術係と近現代美術係の学芸員が展示内容を企画します。しかし、この「夏休みこども美術館」は私が所属する教育普及係が企画しています。

教育普及係が企画する展覧会の醍醐味は何か。今年の夏休みこども美術館を例に話をしたいのですが、その前に、そもそも美術館の「教育普及」って何だろう?ということから始めてみようと思います。

まず「教育普及」という言葉。「教育」して「普及」するなんて、なんだかとっても偉そうですよね・・・。この「教育普及」係という名称自体が、すでに時代とズレている感じも否めません。最近は代わりに「ラーニング」という言葉も使われるようになり、美術館の「ラーニング」担当者という肩書もよく耳にします。さあ、では美術館の「ラーニング」とは何でしょうか?―――振り出しに戻ってしまいました。

「教育普及」や「ラーニング」と称される活動は、美術館のコレクションを軸に、その館のミッションに基づいて、利用者と美術館をつなぎ、人と美術のつながりを、時間をかけて育んでいく活動だと、私自身は捉えています。ですから、教育普及・ラーニングの仕事は、美術館の中で最も「人」に向かっていて、「人」と直接かかわることの多い仕事でもあります。

さて、ずいぶん回りくどくなりましたが、今年、教育普及係が担当した「夏休みこども美術館」で起きた2つの初めてを、ご紹介しようと思います。コレクションを基に、展覧会を通して、どのように利用者と美術の関係を結ぶ「初めて」を構築できたのでしょうか。

 

【初めて① やさしい日本語の作品解説文】

「初めて」の1つは、「やさしい日本語」の作品解説の制作です。当館では、福岡市在住の日本語を母語としない方を対象に、2022年からやさしい日本語を用いた活動を実施していますが、(やさしい日本語の活動については過去のブログをご覧ください)本展では、展示作品のやさしい日本語の解説文に初めて取り組みました。

これまでも「夏休みこども美術館」の展覧会では、こどもを対象に据え、さまざまなキャプション(作品解説文)を制作してきました。今回、展示作品と共に設置したキャプションには、作品の見どころやコンセプトと、担当学芸員がなぜその作品を本展に選んだのかの2点に絞って、小学校高学年を対象に設定し、150字程度の解説文を制作しました。

そして、その解説文を全てやさしい日本語で書き換えたものを、別途制作し、冊子にして設置しました。当初、作品横の解説文を「やさしい日本語」にすることも検討しましたが、当館の利用者層や英語併記などを鑑みて、別刷りの冊子形式を採用しました。

ここで1つ実例をあげてみましょう。展示室に設置した靉嘔(あいおう)《絵物語Ms. and Mr. Rainbow》の作品解説文(背景が青)と、やさしい日本語の解説文です。

展示中の靉嘔(あいおう)《絵物語Ms. and Mr. Rainbow》とキャプション

同作品の解説文(キャプション) 日英併記・小学5年生以上で習う漢字にはルビを振りました。

同作品のやさしい日本語の解説文(冊子形式で設置)

読み比べてみると、2つの解説文の違いがよくわかると思います。やさしい日本語では、分かち書きをし、全ての漢字にルビをふっています。また、1文を短くし、難しい言い回しを、やさしく言い換えています。例えば同作では「共通言語」という表現の言い換えに悩みました。

また、今回は外部のやさしい日本語の専門家(髙栁香代氏)に監修を依頼し、何度も推敲を重ねながら、最終的に全ての作品解説をやさしい日本語にしました。元の解説文から情報を抜粋するのではなく、基本的に同じ情報を載せることも心掛けました。

この冊子は、日本語が母語ではない方はもちろん、障がいのある方や、こどもを含め、どなたでも利用することができます。ぜひ手に取ってご利用いただけると嬉しいです。

展示室に設置した、やさしい日本語の解説文(冊子)

【初めて② 宇宙のイメージをデザインする制作スペース】

もう1つの初めてが、「宇宙にいきたい」の展示室の最後に設えた制作スペースです。今回は展示空間の最後に大きな展示壁を設置し、展示を見終えた来館者が、紙やマスキングテープで宇宙のイメージを表現し、壁に展示するスぺ―スを設けました。毎日増殖していく宇宙のイメージは、見ていてとっても楽しく、来館者がイメージした宇宙が形になって、最終的に壁面を埋め尽くすといいなと期待しています。

制作スペースの案内

制作スペースの様子(7月中旬)

展示室といえば、「美術館=展覧会」というのが、昔も今も一般的な美術館のイメージだと思います。例えば、当館が開館した1979年当時、展覧会を市民に見せてあげること(あえて上から目線な言い方をします)自体、美術館が担う主要な教育普及活動でした(※1)。それから47年。時代とともに社会における美術館の役割が変容し、来館者が美術館に期待することも変わり、美術館職員の意識も変化したことが、今回の展示室での「初めて」が実現した理由の一つと言えるのかもしれません。

来館者が制作した宇宙のイメージ(一部)

 

2つの「初めて」を振り返って感じることは、変化を恐れず、新しい価値観にも向き合うことの大切さと難しさ。そしてその態度が、翻って変わらないものの大切さも気づかせてくれるということ。これからも変化を恐れずに、新しい一歩を踏み出せる美術館の教育普及活動を継続していきたいと考えています。 

夏休みこども美術館2026「宇宙にいきたい」

 

※1 教育普及活動と展示室の関係性については、当館の『研究紀要14号.pdf』「対象者を軸にたどる福岡市美術館の「教育普及活動」 の変遷:①1979-1994」でも詳しく論じています。

 

(学芸員 教育普及係 﨑田明香)

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