2020年12月16日 16:12
みなさんは「どこでも美術館」をご存知ですか?
このブログでも一度「版画ボックス」について紹介していますが、覚えていらっしゃるでしょうか。
その冒頭にもあるとおり、「どこでも美術館」は、美術館のスタッフが館外へ出かけ、オリジナルの美術鑑賞教材(ボックス)を使って、美術鑑賞や創作体験のプログラムを行う活動です。主に特別支援学校や離島の学校、高齢者向けの講座を行う公民館など、美術館に来てもらうことが難しい方々のもとへ出向き、活動しています。
ということで、今年も教育普及係を中心に学芸課のスタッフで公民館や学校へ出かけてきました。今回はその様子を少しだけご報告します。
今年のどこでも美術館は、いつもとは違った活動になりました。そう、新型コロナウイルス感染症です。4月の申し込みを受け付ける段階ですでに緊急事態宣言が発令され、学校も公民館も休校・休館に。なので、今年は活動ができるのだろうかと不安をかかえながらのスタートになりました。
そんな状況だったので、学校からの応募は1件だけ。それでも、公民館からは、昨年同様8件の応募があり、館の方からは「できるかどうかわからないけど、状況が良くなるという期待も込めて応募します」とのありがたい言葉も。その言葉に勇気づけられ、日々の報道にも注目しながら活動開始の時を待つことにしました。
緊急事態宣言も明け、ようやく活動が始まったのは、公民館が再開した7月でした。活動開始を予定していた6月からは1ヶ月遅れてしまいましたが、公民館や学校の方と話し合い、館内でも対策をいろいろ考えて準備を整えました。
手洗い、消毒、検温、マスクの着用はもちろんですが、一番気を使ったのが密にならないこと。どこでも美術館のプログラムでは、とにかく密になることが多いのです。例えば絵画のプログラムでは、みんなで絵の前に集まって、会話をしながら作品鑑賞をしたり、染め・織りもののプログラムでは、グループでアイデアを出し合って、カンガという東アフリカの布の着方を考えてもらったり。創作活動をする時も、机を向かい合わせにして座ってもらうのが基本です。こんなふうに参加者同士でコミュニケーションをとって、話題を共有したり、誰かの言葉に新しい発見をしたりするのも活動の楽しい部分であり、大事な要素のひとつなんです。今年は参加人数もいつもの半分に限定し、お互い距離をとりながらそれぞれで活動してもらうという少し寂しい形になってしまい、もどかしく感じる時もありました。それでもそんな心配をよそに、参加者のみなさんは、普段なかなかできない体験を純粋に楽しんでくださったようです。

いつもはこんな感じで集まって鑑賞します
今年行ったのは、絵画、染め・織りもの、油彩画の技法のプログラムでした。絵画のプログラムでは、あまり近くで絵をじっくり見ることができず、手元のプリントを見ながらの鑑賞となってしまいましたが、みなさん絵を見て気づいたことや想像したことを活発に発言してくれましたし、学芸員の話に熱心に耳を傾け、いろいろな質問も飛び出しました。染め・織りもののプログラムでは、初めて見るカンガにみなさん興味津々で、それを身にまとっていろいろな着方を試すのも、新鮮な体験だったようです。油彩画や日本画の創作活動も初めて使う絵の具や道具を使って、慣れないながらもそれぞれの表現を楽しんでくれました。

今年は離れたところから
いつものように、みんなでわいわいとというわけにはいきませんでしたが、「楽しかった」、「はじめての体験で面白かった」「美術が身近に感じられた」そして「コロナで沈んでいた気持ちが明るくなった」などと言ってくださったことに、改めて今年も活動ができたことにほっとし、こういう時だからこそ活動することの大切さをより感じることができました。そしてみなさんのコロナでたまったストレスを少しでも解消できていればいいなと思った今年の活動でした。

グループでとはいきませんでしたが、カンガの着方を考えて披露してもらいました
当初予定の日程から延期を余儀なくされた公民館もありましたが、結果的には無事に全ての館・学校で実施することができて本当によかったと思います。そして、「次回もまたお願いします」と言っていただいた公民館や学校の方々のうれしい言葉にとても励まされました。まだまだこの不安な状況は続きそうですが、またもとのように、密を気にせず活動ができる日を心待ちにして、来年の準備をしたいと思います。
(教育普及係 中原千代子)
2020年12月10日 10:12
皆さま、師走ですね。師走と言えば大掃除です。今年はなかなか難しい年でしたが、そんな困難さも払ってしまおうと、私たち教育普及係も、これまで引っ越ししてきたままになってきた資料やら、この1年でいらなくなってしまったものなどちょっと整理しようということなりました。資料室の奥やキャビネットの中を出し、いるものいらないものと分類していると・・・なんと、出てきました!1991年からの「夏休みこども美術館」のワークシートが!夏休みこども美術館は1990年から始まっているのですが、その頃は、教育専門の学芸員がおらず、さまざまな専門の学芸員たちが持ち回りで担当していたそうです。90年代の最初のころはまだ常設展示のリーフレットを転用してワークシートにしており、デザインもちょっぴりそっけないものですが、解説あり、クイズありと、それぞれ担当した学芸員が試行錯誤しながらワークシートを作っているようすが垣間見られます。

常設展示のリーフレットを転用した「夏休みこども美術館」のワークシート
1990年代半ばからは、ワークシートも豪華になり、カラー化。デザインも凝ったものになり、ちょっとしたお土産のような感覚のものに。正直、今のワークシートより、だんぜん紙も印刷もいいです・・・。だんだんと「夏休みこども美術館」に、学芸員たちが力を入れだしたことがわかります。それにしても、判型も内容も雰囲気も年ごとに違っていて、担当者の個性が爆発!していますね。

担当者の個性が爆発?なワークシートたち
そして、90年代末から教育専門学芸員が「夏休みこども美術館」を担当することになり、1999年から2007年まで「美術館蔵おじいさん」が登場して作品案内をするワークシートになりました。

「美術館蔵おじいさん」が作品紹介をするワークシート
実は、私、このワークシートを2007年まで担当しておりました。ついつい、ページをめくっては、まだまだ内容が練れてないなぁとか、この文章意外にいいな、など思ったり、あの時に一緒にワークショップをやった学生ボランティアさんはどうしているだろう?などと思い出したり・・・おっと、いけない!これでは大掃除がすすまない!
しかし、昔、「夏休みこども美術館」に来ていたこどもも、今はもしかしたら親として「夏休みこども美術館」に来ているのかもなぁ、など30年分のワークシートを見て感慨深く思いました。たまには大掃除もいいものです。

2000年代後半からまた判型がいろいろに。2012年にはワークシートではなく、記録集を作成しています

リニューアル直前からリニューアル後のワークシート
(主任学芸主事 鬼本佳代子)
2020年12月2日 17:12
先日、岡山県倉敷市にある倉敷芸術科学大学で開催されたゲリラ・ガールズの展覧会「『F』ワードの再解釈:フェミニズム!」を見てきました。ゲリラ・ガールズは、アメリカを拠点に美術業界における性差別や人種差別を告発する匿名のアーティスト集団。ゲリラ・ガールズの代表作ともいえる《女性がメトロポリタン美術館にはいるには、裸にならなきゃいけないの?》(1989、2005、2012年)は、メトロポリタン美術館の近代美術部門の展示状況を分析し、男女の非対称について告発する作品です。1989年版では「
ゲリラ・ガールズにならって、福岡市美術館の近現代美術の常設展示の状況を調べたことがあります。2014年度末、近現代美術室(現:近現代美術室C)内に展示されていた50点(50作家)中、作家の男女比は49:1(2%)、ヌードを描いた/表わした作品は12点、ヌードを描いた/表わした作品中の女性ヌードは12点(100%)でした。数字を出してみるとかなり衝撃的に感じます。
担当ではなかったとはいえ、出品作品についてコメントしてもよかったのかも…と今となっては思います。でも、テーマに合致した作品を選ぶとこうなってしまったこともよくわかるのです。
というのも、当時、約12000点の近現代美術コレクションに占める女性作家の割合は約4%、作品数は約2%だったからです。所蔵品にこれだけの不均衡があると、コレクション展示は所蔵品研究の成果でもあるので、どうしても展示内容にも影響してしまうのです。
あれから5年以上が経ちました。現在2階コレクション展示室で展開している「コレクションハイライト①②」にて展示中の43作家中6作家(13%)が女性であることからわかるとおり、非対称であることには違いないけれど、リニューアル前と比較すると徐々にわたしたちの意識も、状況も変わってきています。所蔵品にも、女性美術家の作品が毎年加わっています。今年度末発行予定の『研究紀要』では、福岡市美術館の活動をフェミニズムの観点から振り返り、2020年の最新状況を交えて報告しようと、ただいま準備しているところです。完成したら、ぜひご一読いただきたく思います。
さて、近現代美術室Bで開催中(12月27日まで)の「纏うわたし、見るわたし――やなぎみわとリサ・ミルロイ」は、女性アーティスト2人の当館所蔵作品を全点展示している展覧会です。展覧会を企画する動機はひとつではありませんが、背景には上記のような視点もありました。本展では女性の美術家による、着衣姿の女性あるいは衣服を表わした作品が並んでいるのです。

〔念のため付け加えておくと、ここで問題としたいのはあくまでも美術館の展示・所蔵作品における男女の不均衡であって、生物学的性の観点からなんらかの判断をくだそうとするものではありません。『フェミニズムはみんなのもの』(堀田碧訳、エトセトラブックス、2020年復刊)でベル・フックスはフェミニズムを次のように定義しています。「フェミニズムは、ひと言で言うなら、『性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動』のことだ」。問題は「差別」
(学芸員 近現代美術担当 正路佐知子)