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カテゴリー:コレクション展 近現代美術

コレクション展 近現代美術

夏休みこども美術館2020こどもギャラリー「みるみるこわい絵の世界」開催中

みなさま、こんにちは。
毎年こどもたちの夏休みに合わせて開催している『夏休みこども美術館』、1990年から始まり今年でなんと30周年を迎えます。今年は「みるみるこわい絵の世界」と題しコレクション展示室近現代美術室Aにて開催しています。夏といえば怪談やこわいおばけがつきものですが、美術館の「こわい」は一味違います。みればみるほどこわい絵やこわいお話がかかれた絵、はらはら・どきどきする絵などいろいろなこわい絵の世界へみなさんをいざないます。

さて、この展覧会は「こわい」がテーマなのですが、みなさんが最近「こわい」と思うことはなんですか?私も幼いころはテレビで見る幽霊や怪談がこわかったです。今でもあまり得意ではないですが、今はそれよりも「こわい」ものがあります。例えば今だったら、〆切がこわいです(学芸員の方には結構多いかもしれません)。放っておいて後から手を付けようとすると時間がなくてとても焦ります。あとは、今までにやったことがないことも、こわくてなかなかチャレンジできません。でも、前に進むためにはこの「こわい」にちゃんと向き合うことが大切だと、私自身の経験の中で思いました。今回の展覧会では、こどもたちが「こわい」、「よくわからない」に向き合う機会にしてほしいと思い、あえて「こわい」をテーマに選びました。

展示会場の照明は、「こわい」雰囲気が出ると思い、普段より少し暗めに設定しています。

展覧会では、4つの章にわけて作品を紹介しています。章ごとに、作品をみるときに注目してほしいことを書いた、写真のようなパネルをおいています。作品を見る前に、ぜひパネルを読んでみてください。

各章はこのようになっています。

◆みればみるほどこわい
 ぶきみでおそろしいものがかかれている。よーくみてみよう。何がみえたかな?
◆はなしがこわい
 ここにかざってある絵には物語があるよ。どんなおはなしなんだろう?
◆はらはらしてこわい
 あぶない!なにをしているんだろう?登場人物たちのセリフを考えてみよう。
◆こわいってなんだろう?
 この絵、くらくもみえるけど、あかるくもみえるな。この絵はこわい?こわくない?どうしてそう思ったんだろう?

展示している作品は全部で13点あります。今日はそのなかから2点だけご紹介します。
1つめはこちらの作品です。

吉村忠夫《地獄変》1950

こちらは ◆はなしがこわい の章に展示している1点です。いったいどんなはなしが描かれているのでしょう?

闇の中には鳥の影、燃え盛る牛車のなかにはなんと女性が!?その周りの人たちは何をしているのでしょうか?登場人物をみてみましょう。

火の粉が上がる牛車の中にいるのは女性。縛られているみたいです。これだと自力で脱出はできないかも。

いちばん右の男性は松明を持っています。この人が火をつけたのでしょうか?

真ん中にいる男性は手を伸ばしています。炎の中にいる女性を助けようとしているのでしょうか?

いちばん左にいる男性は慌てることもなく平然と座って、燃え盛る炎をじっとみつめています。

こちらは吉村忠夫が描いた《地獄変》です。小説家芥川龍之介の同名小説「地獄変」の一場面を描いた作品です。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、この小説のあらすじは、絵師が地獄変(地獄を描いた絵)を依頼されて、燃え盛る女の姿が描きたいが自分は見たものしか描けないから、せめて牛車が燃える姿を見せて欲しいと依頼主に頼みます。しかし意地の悪い依頼主が用意した牛車には、絵師の娘が縛られて入れられていました。最初は戸惑い助けようとする絵師も、牛車に火がつけられると炎の中で苦しむ娘の姿をただ見つめるばかり。その後、絵師は立派な地獄変を完成させ自殺するというものです。

この作品を見ていると、自分の美や理想を追求するためにどこまで許されるのか、自分は大丈夫だろうか、などいろいろ考えさせられます。みなさんはいかがでしょうか?もし物語を知らなくても、描かれた情景や人物たちから、想像して絵から読み取ることを楽しんでみてください。

もうひとつの作品はこちらです。
こちらは ◆はらはらしてこわい の章で紹介している作品です。
さっそく見てみましょう。

アンリ・マティス《ジャズ サーベルをのみこむ人》1947

紫と青、赤、そして白と黒、鮮やかな色が使われています。
いったいなにをしてるのでしょう?

以前いらっしゃったお客さまはおふだを飲み込んでいる姿だと言われていました。たしかに薄っぺらい紙を口に入れているようにもみえます。しかし、タイトルは《サーベルをのみこむ人》です。どうやらサーベルを飲み込んでいる人を表しているようです。いろいろ想像が膨らみます。ちなみに私は最初にこの絵をみたとき、口に丸太3本を突っ込まれて目は涙目になっていて拷問されているのかと思いました。

実は、こちらの作品はサーカスから発想を得て描かれています。フランスの画家アンリ・マティスの作品です。サーカス、そう言われると「あらよっ!」という掛け声が聞こえて、あれよあれよと3本のサーベルをのみこんで得意げになっているようにみえます。また「ジャズ」というのは挿絵本の名前で、この作品はその本の中にある挿絵の一枚です。なので、左端には本のページ数の90という文字が入っています。よーくみると、私はなんだか楽しげな作品に見えてきました。みなさまはいかがでしょうか?もしかすると、作品のタイトルよりもっと面白い情景に見えた方もいらっしゃるかもしれません。この作品は、シンプルな造形ですが人によって見え方が違う、私はその違いが楽しい作品だなと思います。ぜひいっしょにいらした方に、「この絵どうみえる?」ってこっそり聞いてみてください。きっと自分が見ている見方とは違う見方が返ってくると思います。

以上ご紹介した2作品のほかにも、会場には美術館ならではの「こわい」作品が展示されています。
また特別なガイドマップもあります!

ガイドマップには作品ごとに絵を見るときのヒントが書かれているので、そちらを見ながらいっしょに来た人、あるいは自分自身と対話しながら、じっくり絵を見てみてください。よく見る前とよく見た後では絵の見え方が変わってくるし、また他の人の見方や意見にも耳を傾けると全然違っておもしろいかもしれません。
今年の夏は、ちょっとこわいけどでも楽しい、そんなアート体験はいかがでしょう。みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

(教育普及係 上野真歩)

コレクション展 近現代美術

菊畑茂久馬さんを偲んで(2)

確か1995年のことだったと思います。アメリカから高名なキュレーター(学芸員)が来館するので、対応をせよ、という上司からのお達し。ウィリアム・S・リーバーマンという方で、世界有数の大美術館であるメトロポリタン美術館の20世紀部門のチーフキュレーターを務めていらっしゃる方です。同じく世界的な美術館であるニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーターも歴任されたそうで、上品なふるまいの、長身の紳士でした。日本人の通訳他を従えてのご来館です。

大美術館の幹部級の方がいらっしゃる、となれば、当館としてもしかるべき対応をしなければなりません。ところが、これは今考えても不思議でしようがないのですが、なぜか新人同様の自分にその対応を任されました。自分が忘れているだけで、実は当時の館長や副館長に表敬したあとに、自分が案内を任されたのかもしれません。ただもしそうだったとしても、現代美術専門の上司、先輩学芸員は他にもいたので、なお不思議です(出張で不在だったのかもしれません)。

まあとにかく、分不相応の自分が、リーバーマン氏を案内して、常設展示室をめぐることになりました。彼はその時点で70歳前後。足があまりよくないと伺いましたが、展示室内では杖や車いすを使わず、ゆっくりと歩いていました。解説は不要、と言われちょっとほっと?しましたが、彼の見方は流し見。20世紀美術の専門家だから知っている作家ばかりで特に珍しくないのかも?日本の近代美術には興味ないのかも?そう思いながら、彼の後をついていきました。

展示も終盤に差し掛かる頃、彼はある作品の前でピタリと立ち止まり、私に初めて質問しました。「これは菊畑の作品ですか?」。立ち止まった作品とは菊畑さんが1983年に制作した《天動説 五》でした。250×194cmの大作絵画です。そうですよ、と私が答えると、彼は続いて「彼は元気ですか?」、「彼によろしくお伝えください」と話しました。国内外の近現代美術作品をほとんど流し見していたリーバーマン氏が、菊畑さんの作品にのみ言及したことが意外で、私はこのやりとりは今も鮮明に記憶しています。とはいっても、その頃は自分も浅はかで、「菊畑さんは意外と国外でも知られているのだな」程度の認識しか持たず、この記憶も時間の中に埋もれていきました。

この記憶がよみがえるのは、菊畑さんの回顧展の準備中のことでした。2009年12月、菊畑さんへの長時間インタビューの中で、リーバーマン氏の名前が彼の口から出てきたのです。1964年頃、リーバーマン氏は、MoMAほか全米7会場を巡回した「日本の新しい絵画と彫刻展」(1965-67年開催)準備の一環で来日し、日本国内をくまなく回り、作家を調査していたのです。福岡市郊外の菊畑さんのアトリエにもやってきて半日を過ごしたそうです。結果、菊畑さんは出品することになり、図録によれば、《ルーレット》3点が出品されています。ベテランから若手まで、欧米在住者から国内居住者まで、日本人作家46人がこの展覧会に出品していますが、1935年生まれの菊畑さんは当時30歳。若手作家の代表格としての国際デビューとなった記念すべき展覧会です。

菊畑さんとのやりとりの中で、私は、1995年の出会いのことを思い出し始めました。リーバーマン氏があのとき《天動説 五》の前で立ち止まり「菊畑さんによろしく伝えてください」と言ったことの意味を、私はようやく理解しました。そして、これまでの菊畑さんの個展、そして戦後前衛美術史においてこれまであまり注目されてこなかった「日本の新しい絵画と彫刻展」を、詳しく調べてみようと思いました。そして実際調べてみたら、「菊畑さんによろしく」の意味を、なおさら深く理解することになったのです。(つづく)

菊畑茂久馬《天動説 五》(右から2点目のグレーの作品)の展示風景。2001年撮影。

■ブログ「菊畑茂久馬さんを偲んで(1)」
https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/11324/

(学芸係長 近現代美術担当 山口洋三 )

学芸課長ブログ
コレクション展 近現代美術

ヘンリー・ムーアがやってきた!

ヘンリー・ムーア展の思い出
福岡市美術館にヘンリー・ムーア(1898-1986)の彫刻《ふたつのかたちによる横たわる人体 №2》(1960)がやってきました。西日本シティ銀行からの寄託を受けて、6月23日から公開しています。福岡市美術館は、過去にヘンリー・ムーア大回顧展を開催していますし、20世紀を代表する世界的彫刻家、ヘンリー・ムーアの代表作が美術館で公開とあって、取材も多々あって嬉しい限りです。


取材のために資料を確認していて、ひとつ大きな勘違いをしていたことに気づかされました。私事ながら、美術館で勤め始めたのが1987年の夏。なぜか自分の頭のなかで、「自分が福岡に来る直前にヘンリー・ムーア展が終了した。もう少し早ければ見ることができたのに…」というストーリーになっていて、資料を見て「ムーアが亡くなったのが86年?展覧会も86年?えっ、87年の間違いでは!?」と冷や汗をかき、よくよく調べると、自分の記憶違いであったと…。

ちょっと言い訳をさせていただくと、美術館に入ったばっかりの私は、多くの人から「ムーア展はすごかったね!大濠公園で見る彫刻は素晴らしかったよ」「え、ムーア見逃したの?もうちょっと早く来てればよかったねえ」「惜しいことしたね」と、さんざん言われたのです。みんな、一年前のことなのに、ついこないだのことであるかのように。その情熱を思えば、展覧会を契機にヘンリー・ムーアの彫刻を設置する市民運動ができ、2年の歳月を経て現在博多駅に設置されている《着衣の横たわる母と子》(1983-1984)に結実したことも、納得です。

 

福岡市美術館にとってのヘンリー・ムーア
実は、いままでナイショにしていましたが、いえ、そうではなく、あまり大声で言ってこなかったのですが、福岡市美術館には、あるジャンルにおいて、突出したコレクションがあります。実は、「英国の現代彫刻」のコレクションは、作品の規模、質、カバーする時代といい、確実に国内トップレベルです。

開館から3年後の1982年から1990年、1998年と、当館はブリティッシュ・カウンシルと、3度にわたって英国の現代美術展を開催してきた、ということが基盤になっています。

アンソニー・カロ(1924-2013) 驚きの平面 1974
バリー・フラナガン(1941-2009) 三日月と鐘の上を跳ぶ野うさぎ 1988
デイヴィッド・ナッシュ(1945-) 内側/外側 1984
アニッシュ・カプーア(1954-) 虚ろなる母 1989-90
インカ・ショニバレCBE(1962-) 桜を放つ女性 2019

上記の作品は、すべて現在展示中のもの。1970年代から21世紀まで、英国現代彫刻の代表的作家の大規模作品が、館内外で見ていただけます。

アンソニー・カロ(1924-2013) 驚きの平面 1974

バリー・フラナガン(1941-2009) 三日月と鐘の上を跳ぶ野うさぎ 1988

デイヴィッド・ナッシュ(1945-) 内側/外側 1984

アニッシュ・カプーア(1954-) 虚ろなる母 1989-90

インカ・ショニバレCBE(1962-) 桜を放つ女性 2019

ブロンズという彫刻の伝統的な素材から、自然の樹木をそのまま生かすことや、樹脂や染織品の使用へといった素材の変化、アジアやアフリカにルーツを持つ作家が英国の代表的彫刻家として活動していることなど、これらの作品を通して、時代の変遷も見ていただけると思います。ここに、その原点ともいうべき、ヘンリー・ムーアの60年代の代表作が加わって、当館のラインナップは、現在「英国現代彫刻」の日本最強の展示といえるでしょう。

ぜひ、広大な美術館の内外のスペースで、英国現代彫刻の名品を堪能してください。
(館長 岩永悦子)

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